失業保険の達人になる。  (17.01.2015)



「外国人は永住権を持っていても、生活保護を受ける権利がない。」という恥知らずな決定を下した日本の最高裁判所と違い、ドイツでは外国人でも生活保護を受ける権利がある。しかしそこはお役所のやることなので、いろいろと条件を付けられている。ところがドイツで働く日本人の多くはドイツ語が不自由で、情報収集能力に欠ける。結果、ドイツ人なら「誰でも知っている」事も知らないので、正しく失業保険の申請をしていない人が多い。さらに役人は、「外国人にはわかりやしない。」と高をくくり、失業保険を受ける権利があるのに、「あなたには需給資格がありません。」と言うケースもある。まんまと騙されないためには、こちらがまずは知識で武装する必要がある。又、制裁を受けない為の幾つかのトリックもある。そこで今回は失業保険/生活保護の正しい申請方法について紹介してみたい。

まずドイツで就職して、通常の雇用関係にあったとしよう。「私の雇用が通常なものかどうかわかりません。」という人は、雇用契約書を読んでみよう。「解約には3ヶ月の予告期間が必要。」と書かれていたら、通常の雇用関係だ。通常でない雇用関係とは、"befristeter Arbetitsvertrag"で、雇用期間が頭から決まっており、その期間が過ぎれば自動的に失業状態になる雇用形態を指す。これは通常の雇用とは違うので、別のルールがある。まずは通常の雇用関係の場合だが、例えば日本人観光客相手のお土産屋で働いているとしよう。するとある日、「日本人が来なくなったから、あなたに払う収入がなくなった。」と解雇を告げられる。「超~ブル~。」と落ち込んでいないで、すぐに行動に移ろう。将来を考える時間は、あとでたっぷりある。

まずはすぐ翌日、労働局に行ってこれを申請する必要がある。まさか手ぶらで行く人は居ないと思うが、官庁に行く際は身分証明書(早い話がパスポート)を忘れずに。解雇通知書も持参すればさらにいい。受付で、「解雇通知をもらったので、申請に来た。」と言えば、「○階の○○号の部屋の前でMarke(順番票)を引いて待ってください。」と言われる。言われた階まで上がっても、何処にいけばいいのか、よくわらない。周囲には何度も労働局に来て、あたかも自分の右ポケットのように内部を知り尽くした「先輩方」がいるので、恥ずかしがる必要はない。「この人は明らかに経験豊富。」と見える人に、「どこで順番票を引けますか。」と聞こう。とても親切に教えてくれる(筈だ)。たっぷり待たされるので、時間潰しできるものを忘れずに。

やっと自分の番号が電光掲示板に表示されると、表示されている番号の部屋に入る。そこでもう一度、「解雇通知をもらったので、申請に来た。」と事情を説明しよう。すると、「解約を通知されたのはいつですか。」と聞かれる。解約通知書を持参していればこれを提示して、「昨日です。」と言おう。本当は1週間前に来る筈だったので、「昨日です。」などと嘘をつくのは辞めよう。すぐにばれるからだ。その場で、過去の学歴、職歴なども聞かれるので、(ドイツ語の)履歴書があれば、これも持参しておこう。

何故、すぐに申請するのが重要なのかと言えば、解雇を告げられて翌日に申告に来た人には、雇用関係が終了した日の翌日から、失業保険が適用されるからだ。このルールを知らないで、数日、あるいは数週間遅れて申請に来た人は、"Sperrzeit"という罰則が適用される。通常は、例えば1週間遅れて申請に来ると、失業保険の支払いも1週間遅れる程度の罰則で済む。でも失業保険が1600ユーロでるとして、そのほぼ1/4である400ユーロが支給されるない事になる。これは結構、痛い。ドイツ人はこうした規則を熟知しており、「いちいち言わなくても誰でも知っている。」と思っているので、わざわざ教えてくれない。しかし外国人は、その当たり前を知らないので、本来はもらえるお金が支払われないことが結構、多い。ご注意あれ。

中には、折角ドイツで就職したのに、「合わない。」と仕事を自ら辞めるケースもあるだろう。もし自分から辞職した場合、3ヶ月の"Sperrzeit"が適用される。すでに次の仕事が見つかっていれば問題ないが、そうでない場合、3ヶ月、収入がない。そこで、「どうせ辞める会社だ。」と会社との仲を悪くさせないで、会社から解雇してもらう形をとってもらえないか、相談しよう。会社(上司)にしても、「部下が辞職した。」となると管理能力に?が付くので、あまり嬉しくない。しかし、「仕事ができないので首にした。」とすれば、名誉が救われる。だから本当は辞職なのに、解雇の形を取ってくれるケースは意外と多い。尚、自分から辞職した場合でも、翌日、労働局に出かけて、「○月○日から無職になります。」と申請する必要があるのは、解約された場合と同じだ。雇用期間があらかじめ決まっている場合は、雇用期間が終わる3ヶ月前に労働局に出かけて、「○月○日から無職になります。」と申請する必要がある。

ここでよく聞かれるのが、「で、なんぼもらえるんですか。」という質問だ。出業保険の支給額は以前の手取りの60%が「基本給」となる。母子家庭の場合、67%と少し支給額が高くなる。「基本給」と書いたのは、子供が居て"Kindergeld"をもらっていたり、"Wohngeld"(住宅費補助)をもらっている場合は、失業保険と補助金が差し引かれることなく、両方支払われるから。もっともその他の補助金、例えば"Krankengeld"(病気保険金)"Mutterschaftsgeld"(母親補助金)などが支給されている場合は、失業保険の支給額は減額されるので、支給額は基本給よりも低くなる。

すると、「アルバイトして、快適な失業生活を送ろう。」と考える人が少なくないが要注意。週15時間未満のパート/アルバイトでは、「基本給」から165ユーロ天引きされるので、丸々収入になるわけではない。「じゃ、労働局には秘密にしよう。」と安直に考える人が多い。その辺は、労働局はとっくにお見通しだ。レストラン、建築現場などでは定期的に関税局による「ガサ入れ」が行われている。外国人労働者を見つけると、「この人は、何処何処で働いていました。」と労働局にお知らせが行く。「失業保険をもらっていた。」事がばれると、直ちに支給が止まる。それで済むことは滅多になく、これまで支払われた失業保険の払い戻し請求も来る。おまけに利息も要求される。「でも、1日しか働いていないんです。」といういい訳は、ガサ入れで捕まった失業者が口を揃えて同じことを言わなかったら、信憑性があったかもしれない。この種のいい訳は古典なので、例え本当に1日目のアルバイトで捕まっても、信じてもらえることはない。外国人である我々は、特にまだ永住権がない場合、ビザの更新に悪影響を及ぼすので、法律に違反して就労をするのは辞めた方がいい。

ではこの失業保険はどのくらいの期間、支給されるのだろう。それは就職していた期間に拠って、支給期間が決まっている。12~15ヶ月の勤続期間では、たったの6ヶ月。16~19ヶ月の勤続期間で8ヶ月、20~23ヶ月の勤続期間では10ヶ月、24ヶ月以上働いていた場合は、やっと1年間支払われる。ただし50歳以上で30ヶ月以上の勤続期間では、これが15ヶ月に、55歳以上で36ヶ月の勤続期間では18ヶ月に、そして58歳以上であればようやく2年間、失業保険が支給される。じゃ、失業保険の支給期間が切れたら、次はどうなるのだろう?

失業保険金は"Arbeitslosengeld"と言うが、最初に支払われる失業保険は"Arbeitslosengeld 1"と呼ばれる。もっとも、日本でも長い言葉が好んで短縮されるように、ドイツでも短縮されて、"ARG 1"と呼ばれる。1の次には、当然2が来るわけで、上述の"ARG 1"の支給期間が終了すると、"ARG 2"が支給されることになる。しかし実際には"Arbeitslosengeld 2"と呼ぶのは労働局の役人くらいで、一般には"Hartz IV"と呼ばれている。すなわちこれが生活保護の事だ。

以前は失業保険は、極端な言い方をすれば、「死ぬまで」支払われていた。これにより安定して生活が送れるので、「なんで朝早く起きて仕事に行く必要がある。」と、仕事を探す意欲を殺ぐ結果となっていた。そこで日本ではこれから来るであろう社会保障制度の改革が、ドイツでは2002年に始まり、2005年1月1日から施行された。その結果、"Arbeitslosengeld 1"が終了すると、生活保護に移行することになった。これにより支給額はたったの399ユーロ(2015年1月1日から)になるので、「これはたまらん。」と仕事を探す意欲が高まる。冒頭で述べた通り、我々、外人でもドイツで生活保護を受ける権利があるので、その点の心配はない。ただしこれは永住権、すなわち"Niederlassungserlaubis"を持っている場合だ。期限付きの労働許可で働いている場合、労働許可の有効期限が切れると、滞在許可も更新されない可能性が高いので、永住権のひとつ手前、せめて"Arbeitsberechtigung"がもらえるまで、長期失業は避けるべし。

"ARG 1"から"ARG 2"への移行は、自動的にいくものではない。"ARG 2"に移行する前に、労働局で面接がある。ここで財産を明かす必要がある。生活保護の受給資格は、他に生活の術がない事を前提としているので、個人年金などに払い込んでいたりすると、「財産が無くなるまで需給資格がありません。」と判断される。「個人年金を満期の前に解約すると、違反金をがっつり取られてしまう!」と言っても労働局には通じない。これを解約してまずは残金を使い果たすしか、"ARG 2"をもらう方法はない。もし株や証券などに投資している場合、これも当然、売却して消費してしまう必要がある。「今、赤字なので売りたくない。労働局にはナイショ。」などと考えないほうがいい。株、証券を置いている銀行が、点数を稼ぐために、労働局に密告するからだ。これがばれた場合、運がいいと"ARG 2"支給の停止になる。運が悪いと、これまで支給された"ARG 2"+利子の払い戻しまで要求される。

そんな目に遭うと、目も当てられないので、「"ARG 2"になりそうだ。」と思ったら、財産があるかどうかは問題にされない"ARG 1"のうちに、財産を「処分」しておいたほうがいい。例えば個人年金は誰かに買ってもらえばいい。売却益はシンガポールの銀行に口座を作って、そちらに移してしまえば、ドイツの当局にはわからない。間違っても、日本やシンガポールの銀行から、ドイツの口座に送金しないように。海外からの入金、株、証券の売却は銀行が労働局に密告するので、隠し財産があることがばれてしまう。「でも日本までお金を取りに買えるだけのお金の余裕がありません!」という方に朗報がある。

冒頭で述べた取り、「生活保護は国籍を有する国の政府の責任である。」と日本国政府が言っている。これに従えば、ドイツで"ARG 2"になる者は、「日本で住民登録をして、生活保護を申請しなさい。」という事だ。だったら日本に一時帰国して、市営住宅でも借りて、生活保護を申請するのは日本政府の方針でもある。こうして日本でも生活保護を受けることができるわけだ。大きな収入にはならないが、せめて一時帰国の交通費くらいにはなる。なんという慈悲深い日本政府の方針だろう。ちなみにドイツ人はドイツ国内複数個所で住民登録、複数の労働局で"ARG 2"を申請するという荒業をやってのける。ドイツの労働局は管轄が違うと、まるでよその国、滅多にばれることがない。

失業中は定期的に労働局に出頭して、「仕事を探していました。」と報告する義務がある。労働局から、「○月○日、○○時に出頭せよ。」という手紙が届くと、必ず出頭しよう。「あ、忘れてた。」となると "Sperrzeit"が適用される。ドイツ人は失業中に休暇に行って数ヶ月過ごすので、「うっかり」この手紙を読み損ねる。帰国して"Sperrzeit"のお知らせを見て、知恵を絞る。何しろ、生活がかかっているのだ。ここでもドイツ人の想像力は旺盛だ。自身の病気から始まって、次第に親、親戚、兄弟の病気、事故まで広がっていく。中には親、兄弟、親戚をすべて使い尽くし、理由に事欠き、「ズボンのジッパーが壊れて、恥ずかしくていけなかった。」と大真面目で返事をしたドイツ人も居た。言う間でもなく、労働局は即、"Sperrzeit"を適用した。

これに憤慨したドイツ人は、「労働局の無謀だ。」と"Sozialgericht"に訴えたので、ドイツ全土で有名になったが、裁判所はこの愉快ないい訳を認めなかった。毎年、この類の争が裁判所に持ち込まれる。その数は6000件を軽く越える。馬鹿馬鹿しい訴えが多いのだが、それでもざっくり言って4割の確立で労働局は、裁判に負けている。すなわち労働局も頻繁に、間違いを犯す。例えば失業保険の支給額が1600.85ユーロとなった場合、基本的に四捨五入して1601ユーロの支給額になる。ところが、「市民の税金は15セントでも無駄にはできない。」と労働局は四捨五入を拒否、1600.85ユーロを支給した。ところが失業中のドイツ人は、「塵も積もればマウンテン。」と、労働局に15セントの支払いを求めて訴えた。というのも、失業中のこうした裁判は勝っても負けても、(基本的に)無料なのだ。だからたかが15セントでも、裁判所に訴える。これで得するのは弁護士だけ。弁護料は国が払うので、取り損ねがない。だから失業者は弁護士のお気に入りになっている。
 
ちなみにこの件では労働局は、一審で敗訴したが上告した。そして高等裁判所でも負け、裁判所は労働局に対し、原告への600ユーロの支払いを命じた。原告の弁護士費用だけで2000ユーロかかり、これに裁判所の費用を考えれば、15セント払った方が遥かに安かった。しかし、官庁の人間はコンピューターみたいなところがあり、合理的に判断しない。だからおかしな判断が多く、失業者でも4割を越える勝算がある。もし労働局に不当に"Sperrzeit"の判断を下されたらな、お近くの弁護士のドアを叩いてみてもいいかもしれない。

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超ブル~な気分になる労働局
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