悠々自適の年金生活? その弐 (17.12.2014)

「金を大量に市場に流通させると、ハイパーインフレーションが起きる。」というドイツ人の心配にもかかわらず、欧州のインフレ率は下落し続けた。イタリアやフランスでは遂に軽いデフレに陥り、欧州全体でのインフレ率は0.3~0.4%と低迷した。中央銀行はデフレ対抗策として、2014年9月、金利を0.05%まで下げ、いよいよ欧州でもゼロ金利時代へ突入した。欧州経済の様子を見る限り、この先数年はこのゼロ金利が続きそうだ。インフレ率が低いので、実質的な購買力の減少は最小限度に留められるが、これまでの貯金(貯蓄方法)が魅力をなくしてしまった。これまでは貯金の定番だった定期預金は、例えばデユッセルドルフのSparkasseでは金利が0.15%しかなく、低いインフレ率のさらに半分しかない。これでは貯金してもお金は全く増えない。今、10~20年後の老後対策をしている世代にとって、老後の資金確保が難しくなってきた。

それでも利子がつけばまだいい方で、地方銀行のSkatbankはドイツで最初の銀行としてマイナス金利を導入した。すなわち銀行にお金を預けると、金利が預金額から引かれていくのだ。このマイナス金利が採用されるのは、50万ユーロ(法貨で7千万円程度)以上の預金額がある人だけだが、金利は-0.25%。50万ユーロの預金額では1250ユーロの金利を引かれてしまうことになる。すると今度はドイツの大手銀行、Commezbankも大口の法人口座にマイナス金利を12月から導入すると発表した。その原因は、欧州中央銀行(以後、EZBと略)が初夏に導入したマイナス金利にある、この金利政策により、EZBお金を預けている銀行は、EZBに利子を払うことになった。このため顧客から金を預かった銀行は、利子を払うどころではなくなった。預かった金の置き場に困った銀行は、マイナス金利を導入するに至った。大手の銀行がマイナス金利を導入したので、今後、他の銀行もこれに続くことは避けられない。現時点では、マイナス金利は大口顧客だけに適用されるものだが、金利は低くても、まだプラス金利が出れば御の字かもしれない。

この低金利の余波をモロにくらっている業界がある。それは保険業界だ。保険会社にとって、銀行の定期預金のようによく売れていたのが生命保険だった。ドイツでは生命保険は"Risiko-Lebensversicherung"と"Kapital-Lebensversicherung"2種類に分けられる。双方、"Lebensversicherung"(生命保険)の名前が付いているが、全くの別物だ。"Risiko-Lebensversicherung"は、おそらく日本でも同じ名前で売られている生命保険で、被保険者が死亡した場合に遺族に契約額が支払われる。後者の"Kapital-Lebensversicherung"は日本の個人年金に相当する。短いものでも13年、長いものでは20年以上一定の掛け金を払い込み、満期になると死亡するまで年金が支払われるというものだ。この保険は定年が視野に入りだしてから、「将来が心配だ。」と個人年金を考える40代~50代に突入した層が主な客層だ。ここでも過去に取り上げたことがあるのだが、法律が変わったので、再度、ここで紹介しておこう。

まだ20世紀の頃、個人年金の保証利率は4%だった。当時は高い金利に加え、保険が満期になると"Überschussbeteiligung"(利益配分)を行い、実質、5%以上の利回りを確保できた。その後、保証利率は4%から3.25%へ、そして2.75%へと下がり続けたが、それでもまだ終わりではなく、リーマンショック後は、1.75%まで下げられた。ところが個人年金は長期の契約なので、契約済みの客には約束した4%、あるいは3,25%を支払わなければならない。マイナス金利のこの時代、どうやってそんな高率の利回りを出せばいいのか。これでは新しい契約を取って、その掛け金を古い契約者の支払いに充てるネズミ講と変わらない。このまま現状を放置しておくと、経営が悪化して倒産する会社が出てくる。そんな事態になれば、個人年金加入者は定年に達すると生活保護を申請する以外にすべがない。これが社会、とりわけドイツの財政に与えるダメージは大きい。そこで政府は2年前に1.75%に下げたばかりの保障利率を、2015年1月1日から1.25%に下げることを決定した。

これで一息つけることになった保険会社は、「今のうちに申し込めば、まだ1.75%の保障利率です。」と宣伝、「迷える子羊」を探している。これに「コロリ」と騙されて相談に行くと、「保障利率は1.75%ですが、満期には利益配分もあるので、配当金はもっと高くなります!」と言われ、「銀行に相談に来て良かった~。」と安堵して胸をなでおろす。確かにAllianzのような大手は、"pimco"という世界最大の資金を持つ投資ファンドを所有しており、ここで着実に利益を出している。お陰で2014年に満期を迎えた加入者には3,60%の配当を行った。「そんなにもらえるなら、是非、加入したい。」と思った人は、でかい落とし穴に気づいていない。2014年に満期を迎えた人は、元来、3.25%の保障利率だったのだ。すなわち利益配分で上乗せされたのはたったの0.35%。世界最大の保険会社で、世界最大の投資ファンドを抱える会社で0.35%なのだ。今後、マイナス金利にも関わらず、この利益配分が保持されたと仮定しても、1.75%の保障利率では最高でも2,1%、引き合いにだされた配当利率3,6%には遠く及ばない。

個人年金の保障利率がまだ2.25%だった頃、消費者団体は「個人年金だけは避けるように!」と、実例を挙げて警告していた。保険の契約を取ると、銀行員にはたんまりボーナスが出る。そのボーナスが目当てで、行員は見事な餅の絵を書いてくれるが、絵に描かれた餅を口にする事はない。大体、そのボーナスは、客が払う掛け金で払われるのだ。だから契約した途端にすでに数千ユーロ、保険口座からひかれている。何も知らない客は数年かけて赤字の保険口座を黒字に戻し、それからやっと老後の貯蓄が始まるが、保障利率が1,75%の今のうちに加入して、あるいは最悪の1,25%で加入しては、元金の回収がやっとだ。

今後、十数年もゼロ金利が続くような事態になれば、ただでさえ「将来は国民年金支給額が減る。」と言われているのに、老後対策はどうすればいいのだろう。現在の金利では、貯蓄は役に立たないので、逆に安い金利を利用してはどうだろう。ドイツでは一般に、"Betongold"(コンクリートでできた金)に投資するのがいいと言われている。すなわち不動産だ。ここ数年、都市部の不動産価値の上昇は目覚しく、10年前に不動産を都市部に買った人は笑いが止まらない。この10年間の家賃収入に加え、10年経っても不動産の価値がほとんどさがっていない。中心部では、逆に不動産価値が上がっているケースもある。しかしこれは都市部だけ。20年ローンを組んで田舎に家を建てた人は、残りのローン額が、購入した不動産の市場価値を上回ることも珍しくなく、田舎の不動産の価値は下がる一方だ。

今、利率が安いので、都市部のマンションを15~20年ローンで買えるだけの収入と頭金があれば、不動産を買っておく手もある。定年退職する頃には、家賃収入でローンは返済が完了、あとはそこで老後を過ごすなり、不動産を売却して物価の安い国に移住すれば、資産価値はもっとあがる。しかし、「不動産のような大きな投資は心配だ」という方の方も多いだろう。そこで俗言う、"Immobilienfond"(不動産証券)に投資する方法に人気があるが、リーマンショック後の不況が猛威を振るっている頃、数多くの不動産投資ファンドは閉鎖を余儀なくされた。投資していた物件の価値が大幅に下がって、預かっている金の返金ができなくなったのだ。こうして、「証券なら小額で安全に投資ができる。」と安全を優先した小口投資家は大きな損出を蒙った。もし市内に不動産を買っていれば、投資した金がなくなる事はなかったろう。

「責任は取りません。」とあらかじめ断っておくが、ドイツで金(きん)を買ってみる方法もある。というのも、ドイツでは(何故か)金の購入には消費税がかからない。(銀、あるいは他の金属では消費税がかかる。)日本では金の売買には消費税が加算されている。すなわち同じ日にドイツで金を買うと、日本より8%安く買える。たったの8%だが、帰国前にドイツで金を買い、翌日、日本で売れば、1日で8%儲かるとらぬ狸の皮算用になる。勿論、金の値段が変動しない事が条件だが。現実ではそう簡単には行かない。まず、金にも為替と一緒で、購入価格と売却価格がある。金を売ってる金工はこの差額で儲けている。だから仮に金の価格が変動なくても、この差額で儲けが減る。又、日本の関税で申告しなくて済む程度の金の量では、儲けはたかが知れている。だからといって、スーツケースの底に金を敷き詰めて帰る訳にもいかない。

「金は重くて運ぶのが大変。」と言われる方は、金を買わないで金の証券、通称、ETFを買うこともできる。この金の証券を購入すると、証券の発行元(ドイツでトップ30の大企業。)は実際に市場で金を購入して、銀行の金庫に保管してくれる。もし、「実物が欲しい。」と言えば、自宅まで(ドイツ国内)まで金を届けてくれる。「金を現物で買うと重い。」あるいは、「保管が心配。」と言われる方は、証券で金を所有する事もできるので便利だ。ただし金は買っても配当金が出ない上、価格は上昇すると限らないので、インフレ対策として勧められることはあっても、老後対策としては適していません。金の価格が安いときに買うのが必修です。


アパートの価格の上昇率(左)と平方メートル当たりの値段。
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