ドイツの健康保険 (14.05.2014)

何処の国に行く場合でも、その準備が欠かせないのが医療保険。というのも旅行(留学)先の国では、国民健康保険には入れないから、出発前に現地で使える保険に加入してから出発しないと、現地で慣れない外国語と格闘して、わけのわからないままに言われる保険に加入する事になる。ドイツに留学生として入国する場合、基本的に(つまり例外もあるという意味です。)ドイツの国民健康保険には加入できない。ドイツでも健康保険会社は赤字経営。その主な原因は不治の病、持病を患っている患者の医療費だ。何処の馬の骨とも知れない外国人を保険に加入させて、とんでもない大病をわずらっていたら、保険会社の赤字はさらに悪化する。だから外国人の国民健康保険の加入には、幾つかの条件が設けられている。外国人がドイツの国民健康保険に加入できるのは、大学に正規/交換留学する、ドイツで就労してお給料が出る、あるいはドイツで国民健康保険に加入しているドイツ人と結婚するケースなどに限られている。

大学生の場合は、国民健康保険に加入できる、それも学割で。国から補助金が出ているので、保険料は78.50ユーロ/月(2013年)で済む。ドイツで就労する場合は、保険料を雇用者側と被雇用者側で折半する事になっている。保険料はお給料によって変わってくるが、平均的なお給料なら保険料は340ユーロ/月。この半額だから170ユーロが被雇用者の負担額となる。「私は駐在員なので、平均よりもお給料が高いのです。」という贅沢な悩みを抱えていると、無理に国民健康保険(通称 貧乏人保険)に加入しなくても、個人保険(通称 金持ち保険)に加入することができる。「何が違うんですか。」と尋ねる方には、「全部違います。」と声を大にして言いたい。

まず金持ち保険、すなわち個人保険に加入していると外国人でも一等市民扱いされる。医師の診療所に電話して、「アポイントをください。」などと頼まなくても、自分の都合のいい日、時間に訪問、「診て欲しい。」と言えばいい。すると、「アポイントはありますか。」と聞かれるので、「アポイントはないが、個人保険に加入している("Ich bin privat versichert.")。」と個人保険の保険証を出せば、にっこり微笑まれ、「ではこちらに。」と待合室まで案内される。ここで一枚の書類を渡されて、初診の際に必要な持病やアレルギーについて記入する。記入が終わって書類を返却すると、5分もしないで診療室に呼ばれる。「ドイツって待ち時間がないのね。」なんて勘違いする傍らで、アポイントを1ヶ月前から取って、すでに2時間も待合室で待たされている貧乏保険、すなわち国民健康保険の加入者の群れが居る。

国民健康保険に加入していて医師に診て貰うと、「これは保険の対象外の治療なので、自費で払ってください。」と言われることがちょくちょくある。理由は2つ。まずはせこい理由から。医師は高価な医療機器を自費で購入しているので、効果があるなしにもかかわらず、この機器の使用して費用を回収する必要がある。私が経験したケースでは腰痛で診断を受けると、「このマッサージ機の使用券を買ってください。」と言う。腰痛にマッサージ、しかも機械のマッサージなんて論外だ。「嫌だ。」と言うと、「じゃ、私も(貧乏)患者を診るのは嫌なので、他の診療所に言ってください。」と門前払いを受けてしまった。診療所だって一個の私企業。儲けがないと経営できないので、それは仕方ない。が、効き目のない治療を薦めて来るのはいただけない。

もうひとつの理由は、国民健康保険は西洋医学でその効果が認められている治療法にしか効かない為だ。だからとても高価な中性子による癌治療が保険の対象になる一方で、マッサージは基本的に保険の対象になっていない。だからこれは自費で払うことになる。日本で信じられている民間治療法、漢方薬から始まって、高麗ニンジン、祈祷師などはドイツ語でHomoeopathie(ホメオパテイー)と言うが、ドイツのエリート大学、マールブルク大学が、「医学的な根拠に欠ける。」と発表しており、保険の対象から外れている。その一方で10年ほど前から、針治療の効果が西洋医学でも認められて、保険の対象になっている。長い伝統のある日本では、その針治療は保険の対象外と言うから、おかしな話である。金持ち保険の利点は、何も短い待ち時間だけでなく、こうしたまだ効果が認定されていない治療法や薬にも保険が利く事だ。

当然、「じゃ、私も個人保険に入りたい。」と誰もが思うだろうが、そう簡単には行かない。個人保険という名前の通り、個人保険は私企業が提供する保険だ。公的保険なら公的資金の導入もあり得るが、私企業なのですべて保険の加入費でやりくりする必要がある。だから保険の加入費が高額で、誰もが払えるものではない。若くて健康であれば、毎月300~400ユーロ程度の保険料で済むが、病気になりやすい40代になると保険料は倍、そして50代になると保険料は4桁になる。「じゃ、保険料が払えなくなったら公的保険に戻ればいいや。」と考える人が多いのだが、「一度、個人保険に加入したら、死ぬまで個人保険。」という決まりがあるので、個人保険に加入したほうが本当にいいのか、じっくり考えてみる必要がある。日本の駐在員のように滞在期間が5年程度で、さらに「保険費は会社が払ってくれます。」というなら、個人保険でも構わないだろう。そうではなくドイツで就職している会社員は、個人保険の利益ばかりではなく、失業してもこの高い保険料が死ぬまで払えるかどうか、落ち着いて考えてみる必要がある。

とは言っても、"Ich bin privat versichert."と一度、言ってみたい。一度くらい、上客のように扱われたい。そこでお給料の証明書を発行してくれるように、意地の悪い会社のドイツ人に頼んだ。と言うのも、会社員の場合、4462.50ユーロ(2014年の値)以上のお給料でないと、個人保険には移れないからだ。ところがそのドイツ人は、「面倒だ。」と仕事を拒んだ。当時は恨んだが、後で失業した時は彼女に感謝した。ドイツでは失業中は国が保険費用を払ってくれるが、これは国民健康保険の保険料だけ。個人保険の保険料は倍くらいするので、その差額は自腹になる。さらに国民健康保険なら、本来は本人が自己負担する費用、入院費の一部、歯科治療、差し歯などの高価な自己負担費用まで国が払ってくれるのだ。なんて素晴らしい社会保障システムなんだろう。失業中は健康チェックに限る。自分が社会的弱者になって初めて実感する、欧州の社会保障制度の充実度である。

同じ日本人(駐在員)が金持ち保険に入っており、マッサージや温泉療養まで「保険で下りました。」と言われると、「何故、私の保険ではできないの?」と隣の芝が青く見えてしまう。だから、「早くお給料をあげて個人保険に。」と思いがちだ。しかしこれはごく一面、それもいい面しか見ていない。国民健康保険なら、旦那だけの保険料で、子供は言うに及ばず、奥さんにも保険が利いてしまう(奥さんが働いていない場合)。だから、「私はドイツで年金をもらいます。」という人には、親からの高額な遺産でもない限り、国民健康保険に留まっているべきだ。もし個人保険に移って失業してしまうと、自分の高額な保険料は言うに及ばず、奥さんや子供の保険費用も別個に払わなければならない。個人保険では、国民健康保険のように旦那の保険料で家族が保険に加入する事はできず、家族の構成員、一人一人がこの高い保険料を払う必要があるからだ。1年くらいなら辛抱できても、2年、3年と失業しながら払える額ではない。

ドイツで稀に無保険の人が居るが、往々にしてかっての自営業者だ。というのも自営業者は個人保険と国民健康保険を自由に選べてしまう。おまけに保険料は経費で落とせるので、会社がうまくいっている限り、高い保険料は気にならない。だから個人保険を選ぶ人が多い。しかしリーマンショックのようにいきなり不景気になると、売り上げが激減、家賃と電気、水道代を払うのがやっとだ。こうして保険料を滞納してしまい無保険となる。会社が潰れても、国民健康保険には戻れないので、一生無保険となる。もし国民健康保険に留まっていたなら、保険は全く心配する必要がなかっただろう。

「しかし国民健康保険では入院した際に、大部屋に入れられるのが辛い。」という方は、「入院の際は個室利用」とか、「病院の筆頭主治医による治療。」という追加保険に加入する事ができる。日本では「2週間以上入院すると5000円支給。」という保険が一般的だが、日本の高額な自己負担の医療費で5000円(34ユーロ)もらってもスズメの涙。ドイツでは病気になった際に、本来は国民健康保険では受けられない治療が受けれるように、さまざまな追加保険が用意されており、こちらの方が実用的だ。その中でも一番のお勧めは、"Zahnzusatzversicherung"(歯科治療追加保険)だ。ドイツでは差し歯、入れ歯などは国民健康保険では半額までしか負担してくれない。1本の差し歯で1000ユーロ程度の費用なので、通常は500ユーロが自己負担になるので痛い。しかしこの追加保険に加入していれば、加入年数により10~50%の費用を保険がもってくれる。言うまでも無く保険範囲により保険料が異なり、保険料は7ユーロ~21ユーロ/月。年を取るにつれ、どうしても入れ歯、差し歯は必要になるので、是非、加入しておこう。

最後に国民健康保険会社について。ドイツには星の数ほど国民保険会社がある。ひとつにすれば無駄がなくなるのだが、ドイツの保険史上、会社が林立して加入者を募集する仕組みになっている。昔は、国民健康保険なのに保険料も異なっていて競争があったが、政府が「それはまずい。」と値引きを禁止、保険料は同じになった。しかし保険範囲が微妙に異なる。大雑把に言えば、お年寄りが多い会社は収入が少ないのに出費が多く、経営が大変だ。逆に若い人が多い会社は出費が少ないので、B型肝炎などの予防注射も無料で提供してくれる。すると、「どの保険が一番お勧めですか。」と聞かれるのだが、それは何を優先するかによる。有名なAOK, DAKなどはどの町にも複数の支店を置いてるので、困ったときは直接、直談判が可能だ。その分、支店運営に金がかかり、保険範囲は少し狭い。「近くに支店がなくても、電話かメールでよい。」という方ならTKにすれば、保険範囲が広くて経済的。各人、自分の優先順位を決めて、保険会社を選んでください。


ドイツの健康保険証、"Versicherungskarte"。
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COMMENT 2

ななちん  2014, 06. 05 [Thu] 09:52

No title

個人保険の優遇は少しずつ変わってきているように感じます。

確かに、個人保険を持っていれば、病院にいった時に国民健康保険の人よりも優遇される傾向があったようですし、今でも一部あるようです。

ですが、最近になってそのような傾向は薄れてきていると感じます。個人保険の患者しか受け入れないという病院を除けば、個人保険を持っていてもあまり優遇されてないようです。

事実、私も個人保険を持っていますが、優遇されたことは一回たりとももありません。 他の国民健康保険の患者さん同様に、アポイントもなかなかすぐにはとれないし、待合でも長時間待たされます。

私が外人だからかなと思い、ドイツ人で個人保険を持っている人に数名確認したのですが、その人たちも昔ほど優遇を感じることはないという人が多かったです。
なんのために個人保険に入ってるんだろう・・・と日々後悔しております・・・

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ドイツの達人  2014, 06. 15 [Sun] 10:53

Re: 個人保険

こんにちわ~。

建前ですが、「個人保険でも国民健康保険でも差別は許されない。」ということになっており、行政からの指示も出ています。

すなわち、個人保険者の優遇措置は本来、あってはならない物なんです。

国民健康保険者として発言させていただくと、私は待合室で2時間の待ち時間は当たり前で、最高4時間待ったことがありました。
アポイントがあったのに。

2時間も待っていると、待っている患者の顔、来た順番を全部覚えてしまいます。
ところが個人保険の患者は、「中入り。」していきます。

「個人保険でも待ちます。」とのお言葉ですが、待ち時間の差は歴然としているというのが私の感想です。

尚、個人保険でも加入者が少なくなり、資金難に陥っている会社も多いです。これを改善するため、個人保険でも安い保険料を用意して、「たったの○○ユーロであなたも個人保険に!」と宣伝しています。

この安い個人保険は、医者への支払いが国民保険の1.5倍程度と、大きな差がありません。
この為、優遇措置が限られているケースも多いです。

ご自身で保険会社の契約内容をお読みになり、契約されたのではなく、会社の人事が決めた会社の保険に加入されたのではないでしょうか。

保険に不満であれば、まずは保険(契約)内容をチェックされることをお勧めいたします。

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