絵に描いた餅 (12.04.2014)

知り合いのドイツ人、なんでも株が安いときにDAXに連結した証券を買ったそうだ。「当時、(DAXは)5000くらいだった。」と言う。西ドイツが東ドイツを吸収する際、価値の低い東ドイツマルクは2:1のレートで西ドイツマルクに交換する事になっていた。ところが時のコール首相が東ドイツ国民に"Bluehende Landschaften"(直訳すると花咲き乱れる光景という意味だが、ここでは経済活動で活気に満ちた町という意味)を約束した手前、1:1の交換レートで交換する政治決定をした。首相の言葉は当てにならない口約束の典型として歴史に残ったが、別の面ではかってない経済効果をもたらした。新ドイツ国民(東ドイツ国民を指す)は、一夜にしてこれまで手にしたことがなかった富を手に、これまで見たこともない商品を買い捲った。その経済効果は目覚しく、ドイツでは90年代にバブル景気を向かえた。そしてバブルの破綻は2000年3月にやってきた。

当時インターネット黎明期。インターネット関連は「ニューエコノミー」と呼ばれ、「ニューエコノミー業界」というだけで、企業の実績を度外視して、買い注文が殺到するバブル景気だった。生まれたばかりの小さなインターネット市場に、そんなに多くの会社が林立しても、需要は限られており業績が伸びるわけがなかった。業績が悪化したニューエコノミー企業が相次いで倒産すると、その波はこれに関係のなかった業界にも波及した。歴史的には"Dotcom-Blase"と呼ばれて歴史に名を残す事になるこのバブル経済崩壊は、かってない規模の悪夢に発展した。これがドイツ板のバブル経済(破綻)である。

2000年に8000台を征服したDAXは、その後、なんと3年間も下落を続け、2003年に2202を記録してやっと下落が止まった。当時をよく知る知人は、「これで底値と思ったら、また暴落して底値を更新、これが3年も続いた。お前、(俺がどんな気持ちだったか)想像できるか。」と当時の心境をしみじみと語ってくれた。その後、DAXは5年かけて7600台まで回復していた。ちょうど米国では不動産危機が発展中だった為、「もう売ったほうがいいよ。」と言うのにその知人は、「今、お金が要るわけじゃない。」という理由で、多分に、「待てばもっとあがる。」と期待して、証券を売ろうとはしなかった。

2008年には次の経済危機、リーマンショックがやってきた。"Dotcom-Blase"よりはマシだったが、DAXは3660まで落下した。その知人に会うと、「参ったな。」と苦笑い。あの時売っておけば数万ユーロの収入だったのに、赤字に転落してしまった。幸い、生活に必要な金ではないので、「定年になるまでに戻ればいい。」と言うが、売って数万ユーロの儲けを確保、再度4000台で購入すれば、2回儲けることができただろう。流石に本人も儲ける機会をみすみす逃した事をわかっているようで、「今度DAXが回復したら売るよ。」と話してくれた。今、DAXは9000を超えて10000万に達する勢いである。果たして彼は証券を売ったのだろうか。

運よく株、あるいは証券を売って利益が出ると、税金を支払う必要がある。「えっつ、どうすればいいの?」と悩む必要はない。銀行が税金を計算して勝手に税務署に納めてくれる。ちょうど2009年から新しい法律、"Abgeltungsteuer"が導入されたので、2009年以降に購入した有価証券の売却で利益が出た場合、この法律に沿って自動的に税金を納めることになっている。肝心の税率は25%と日本よりも高い(筈だ)。もっともこれに"Solidaritaetszuschlag"という日本で言えば復興税みたいなものが1.3%加算される。もし、「私はクリスチャンです。」と公明最大に公言していると、教会税が2%ほど加算されて、合計28%少々が天引きされる。

「そんなに天引きされるのは嫌だ!」とスイスやヒテンシュタインに現金を持ち込んで税金を節約するお金持ちが跡を立たない。2013年に発覚した例で最も有名だったケースは、日本でも知る人の多いミュンヘンのサッカークラブ、バイエルン ミュンヘンの会長が2千7百万万ユーロを超える税金(法貨で38億円に相当)を収めていなかった事だ。ドイツでは「節税がばれた?」と思ったら、税務署に、「○○ユーロ脱税しました。」と"Selbstanzeige"(自己告発)をすることで法的な制裁をまぬかれることができる。それには脱税した額を正確に、その根拠となる資料と共に税務署に提出する必要がある。申告した額が誤っていたり、申告が税務署に届く前に税務署に脱税がばれてしまっていた場合は、自己告発は無効となる。上述の例では、自己告発した脱税額が(たったの)3百8千万ユーロだったので、自己告発は無効とされ3年半の実刑判決が下った。

欧州は統合されているので、ドイツに住んでオーストリアやフランスなどの隣国に銀行口座を取得する事ができる。特にベルギーはデユッセルドルフから車で20-30分で行け、ルクセンブルクはアーヘンから車で数分で行ける上、投資などで儲かった利益にかかる税率がドイツより低いので、ドイツ人に人気がある。が、ここで「無駄な税金を節約しよう!」と思っても、すでに時遅し。欧州連合は統合により金の動きを容易にしたが、そのマイナス面にはすでに対抗措置を打っている。例えベルギーやオランダに口座を作って、ここから投資で利益を得ても、住民登録をしている国の税率が採用されるのだ。すなわちドイツに住んでいれば、26.3~28%程度のドイツの税率が天引きされて、ご丁寧にもドイツの税務署に、「ドイツに住んでいる人の税金です。」と税金を納めてくれる。このようなSteuerabkommen(税金協定)を結んでいる国の一方で、協定を結んでいないスイスやリヒテンシュタインなどの国がある。こうした国に口座を持っていると税金を収めていないので、収入は大きいが、ばれると脱税で捕まる事になる。

もっとも、「脱税するほどの金はない。」という人も少なくなだろう。すると、「日本のNISAのような小口投資家の免除制度はないの。」と聞きたくなる。実はこれがあるんである。ドイツ語では" Freistellungsauftrag"と言う。これは貯蓄の金利、配当金、株などの売買利益などの合計が801ユーロまでであった場合、課税の対象にならないというもの。夫婦であれば、その倍、1602ユーロが非課税になる。投資額、あるいは貯蓄している金額ではなく、所有している財産から得た利益の額面により、課税する必要があるかどうか判断される。この非課税制度を利用した場合は、口座を持っている銀行でこの申請をする必要があるので、口座を作った際に、同時にこの手続きも済ませておけば後で煩わしくない。うっかりこれをやっておらず、配当金などが入ってくると、銀行は自動的に"Abgeltungsteuer"を26.3~28%差し引いて、税務署に払い込んでしまう。一度、税務署に払われてから、「これから申請しますので、お金を返してください。」というのはできない。来年からの収入に対してのみ、有効となる。

銀行員、証券マンは大反対するだろうが、素人は証券よりも株を買おう。前者は証券を出している会社が手数料を取るが、後者は手数料を取る代わりに配当金を払ってくれるからだ。ドイツでは配当金は年1回、4月~5月に開かれる株主総会の翌日に配当され、2~3日後には入金される。この低金利時代、配当金は銀行に預けておくよりはるかに効率がいい。配当額だけでみれば、Muenchener Rueck AGは1株にたいして、なんと7,25ユーロも配当金を払う。株価はとっくに150ユーロを超え、160~170ユーロに迫っているが、配当金も高いので配当率は4,5%。配当率で見ると、まだ電力会社がトップを占めている。ドイツ最大の電力会社、EONは1株にたいして65セントの配当金を払う。「たったそれだけ?」と思うかもしれないが、株価は安値安定してるので、配当率は4.8%になり、定期預金や、個人年金に入るよりはるかに効率がいい。

では利子のない貯金などは止めて、電力会社の株を買ってしまえばいいのか。電力会社はリーマンショック後、福島ショックに遭い、一向に株価が回復していない。電力会社自身、「(2011年、2012年、2013年に続き)2014年は辛抱の年。」と言っているので、来年の配当金(率)はさらに低くなる。ただし、「2015年から収益が上昇に転じる。」と言っている。本当にそんな事が可能なら、株価の回復、それに配当金(率)の上昇という相乗効果が期待できる。あるいは原発や火力発電から再生エネルギーへの転換で費用がかさみ企業業績が悪化、さらに株価が低迷する事もありえる。どこかで原発事故が起きれば、株価は一気に暴落するだろう。どちらの可能性に賭けるか、それは投資家の判断だ。将来のことは誰にもわからないので、投資先(危険)を分散する事が重要だ。

2013年は幾つかのドイツ企業にとって、特に車業界は、創業以来の最高の経常利益を出したおめでたい年だった。その一方で、電力会社のように業績が悪化して、中には配当金が出せないDAX企業もある。ひとつはドイツが誇る軍産複合体のThyssen&Krupp社と、5年前の金融危機で国から金融支援してもらい、まだお金を返せていないCommerzbankの2社だ。2014年の企業成績も芳しくないので、言うに足る配当金が出るのは2015年以降になるだろう。会社がそれまに立ち直していればの話だが。

昔は、「株は長く保有すれば、それだけ価値があがるもの。」と言われた。初任給で株を買い、退職するときに売れば数倍になっているという神話も、まことしなやかに語られた。企業が国内だけでなく、国際的に熾烈な競争にさらされている今、この神話の信憑性は薄い。かって世界最大の家電企業で、二度の大戦(の敗北)を生き延びたドイツのAEGは1982年に倒産した。ドイツが高度経済成功に沸く50年代、「30年後にはAEGは倒産している。」と言えば笑い飛ばされただろうが、これが現実となってしまった。かっての「ドイツのパナソニック」は、現在ではスウェーデンの家電会社がドイツ国内で同社の製品販売促進の目的で名前を使用しているに過ぎない。当然、「AEGの株なら安心。」と思って投資した人は、全財産を失っている。高度経済成長期に彗星のように現れた家電メーカーGrundigも2003年に倒産した。コダック、フジフィルムと競合していた欧州最大のフィルム会社Agfaは2005年に倒産、その後コダックも倒産。御三家で生き残ったのは、社内でのデジタル化への反対を押し切ってデジタル化を進めたフジフィルムだけだった。世界で活躍する大企業でこの有様なので、「この会社なら潰れる事はない。」と楽観して放っておくと、投資した金はいつの間にかなくなっている。

これに加えて今の時代、株価の変動が激しい。数年置きに経済危機が発生しているので、冒頭で述べたケースのように、「今、必要な金じゃないから。」と、一度投資したら定年が近くなるまで放っておくのは、あまり賢い投資方法ではない。「この株は親の遺産なので売りたくない。」と株に親近感を抱いている人もいるが、放っておいて紙くずになってしまったら、それこそ元も子もない。所有している銘柄が、過去最高を日々更新するようになったら、そろそろ売る時期だ。「5月まで待てば配当金がでるので、そこまで待って売ろう。」というのは、往々にして最悪の結果になる。というのも3月~4月は配当金を期待して買い注文が多く、株価が上昇する。これを狙ってプロの投資家はすでに去年の内に投資している。そして株価が上昇した3月~4月には株を売却して、利益を確保する。しかし素人は、「待てば海路の日よりかな。」と配当金を楽しみにして待つ。結局、5月になって配当金が出たものの、株価はすでに下落、投資した金は赤字になっている。プロの投資家はこれを見て、またしても安値で買い入れる。

ブローカー連中は、「株を売って一度利益を確保してしまえば、誰もこれを取ることはできない。」とよく口にする。「待てばもっと上がる(かも?)。」と多大な期待をせず、最低限満足できる額に達したら、一度売って利益を確保しろというのだ。もっと上昇すると確信しているなら、また買いなおせばいい。万が一、株価が上昇しないで下落を初めても、儲けを手中にしているので被害は最小限度で済む。と言うのは優しいが、実行するのは難しい。皆さんの身近に、「(もし今売れば)○○万ユーロも儲かっている。」という「投資の天才」がいるのではなかろうか。その投資の天才は、経済危機が起きて株価が暴落すると、真っ青な顔をしている。利益を確保していないので、数万ユーロの儲けが数万ユーロの損益に変化しているのだ。

素人は株価が下がり始めると、まるで蛇にみいられた蛙のように、動きを止めて株の動きに注視する。ここで株を売ればまだ黒字なのに、魔法にかかったように動きが止まる。儲けが日々減少、ついには赤字になり、損益が日々増大していく。そしてついに我慢できなくなってから底値で売る。すると「株にはもう二度と手を出さない。」と誓う。この他人の失敗を教訓にして、株が目標に達したら一度売って利益を確保しておこう。儲けを確保する前に、「今、○万ユーロ儲かっている。」と言ったところで所詮は絵に描いた餅と同じ。どんなにたくさん見事に描いても、これで空腹を満たすことはできないのだ。

 
1年待ちに待った配当金。
 
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