高配当を逃すな! (12.02.2014)

「8%なんて高配当は、何年もできるものでないです。」という助言をするも、「払うって言ってますよ。」と、この低金利の時代の安全確実な財築方法を発見した某日本人。これまで自分で投資をした事がないと、毎年8%の配当を出し続けることがいかに難しいかわからない。だから高配当を約するパンフレットを見ると、宣伝を信じてしまう方が多い。程度の差こそあれ、ドイツ人も同じように騙されている。こらまで何度かその手口、そして末路を紹介してきたが、また新しい手口が破綻したので、是非ここで紹介してみたい。

以前ここで福島原発の事故により、関係のないドイツの電力会社まで一蓮托生で株価が軒並み暴落した事を紹介した。実際、核爆発を起こして吹き飛んでいく福島原発の映像が与えた衝撃は、ものすごいものがあった。鉛の防護服を着て処理活動をするチェルノブイリの作業員の不気味な姿同様に、あの映像は今後、何度も人類の悲劇として放映されることになるだろう。一般のドイツ人はあの映像を見て原発の恐ろしさを再認識したが、その中に「これは一生で一度の大チャンス!」と、商売のチャンスを見たドイツ人が居た。

福島原発の報道がまだ終わらないうちに、原発の「放射能危険」の看板を風車に変えていく見事な演出で、安全な風力発電への投資を募る会社が現れた。原発嫌いのドイツ人の心理を見事に利用したこの宣伝は、圧倒的な反響を受けた。「環境を救えて、お金がもうかるなんて、まるで夢のようだ!」と7万5千人がこの会社の出す、"Genussschein"(商品券)を購入、この会社は14億ユーロを手中にした。商品券を購入した投資家は、冒頭で述べた日本人のように、6%の配当金+経常利益配当!を信じて疑わなかった。

5%を超える配当金を約束する投資は、何処かに無理がある。「パンフレットに書かれています!」と言われる方が多いのだが、大本営発表で煮え湯を飲まされた日本人が、裏づけも取らないで宣伝に書かれていることを鵜呑みにするのはナイーブ過ぎる。実際、この会社の業績は赤字で、配当金を払えるような利益は出ていなかった。素人でも14億ユーロの投資金に6%の配当金を払うには、840万ユーロ(邦貨で大体12億円)の金が必要になることがわかってもいい筈だった。赤字の会社が一体どうやってこのような大金を毎年、払えるだろうか。その方法はひとつしかなない。ドイツ語で言う、"Schneeballsystem"(雪だるま方式)、日本語で言う、ねずみ講である。

こうしてこの会社は新しい客が商品券を買うと、これを古い客の配当金に当てることにした。すると客は、「危ないって言われたけど、ちゃんと配当金が入っているじゃん。」と安心、友人、親戚、知り合いに「お勧めの投資」として紹介することなった。こうして福島原発の惨状が報道される限り、「原発は怖い。」と客が増えて、会社の運営は続いた。しかし、いつかは破綻するのがこのシステムの唯一の、しかし致命的な欠陥である。流石に原発事故から2年経つと、原発が吹き飛ぶ画像は滅多に報道されなくなり、稀に報道されても視聴者はこれに慣れているのでショック度が低下した。これに比例して新客の割合が減少、さらには古い客が、「株式市場が調子いいので、そちらに投資したい。」と投資していた金を引き上げ始めると、この会社の経営は急にいきずまった。

1月13日、この会社は同社のホームページ上で「これ以上、金に飢えた客が商品券の解約を望むなら、会社は倒産申告をいたします。」と告示、高い配当金を夢見て投資していた投資家の夢は、一気に悪夢に変わった。ドイツの投資団体は、このような危ない投資を可能にしている国を非難したが、もし国が"Genussschein"(商品券)の販売を禁止していたら、「社会主義の始まりだ!」と非難していたどうから、この非難は的外れだろう。ドイツのメデイアはこの脅迫にも近い電力会社の告知を非難したが、同時に「パンフレットに書かれているからといって、何でも信じてしまう消費者にも落ち度はある。」とういう報道の仕方をしており、ナイーブ過ぎたが故の失敗と言われても仕方あるまい。

そんな目に遭わないようにここで危ない投資、通称、"Graue Kapitalmarkt"(灰色投資市場)について、説明しておこう。投資と言えば、株式や証券に投資するのが一般的だが、これにはある程度厳しい査定基準、それに販売条件がある。このような条件を迂回して投資家からお金を集める方法として考案されたのが、Geschlossener Fonds(英 Closed-end fund、通常、CEF)だ。これは通常の株式や証券のようにいつでも好きなときに売買できるものではなく、公募期間が終わると閉じられてしまい、あらかじめ定めた投資期間が完了するまでは、お金を引き下ろすことができない代物である。金融庁の監視、査定を受けないので、「ドイツ産キャビアに投資しませんか(実話)。」や、「ドイツでオイルを一緒に発掘しませんか。(実話)」という危ない投資が多く、灰色という名がついている。

ここに投資すると今回のように商品券だったり、"Beteiligungsschein"(参加証)などが交付される。Geschlossener Fondsは10年、長いものでは30年も投資するものがあるので、(危険性は言うに及ばず)、個人投資家には全く向いていない。しかるにドイツで銀行に投資の相談に行くと、このような投資形態を薦めてくる。何故だろう。それは見返りが桁外れに大きいからだ。銀行員が顧客にある株を薦めてこれを売っても、手数料はたったの1%(3000ユーロ以上の投資の場合)。数時間かけて顧客の相談を受け、1%、30ユーロの収入では、街角に立ってバイオリンでも奏でていたほうがもっと稼げる。ところがこのGeschlossener Fondsは15%~20%もコミッションを払ってくれる。今、倒産目前のこの風力発電会社の場合、商品券は2万ユーロが一番安い証券だったので、1枚売れば3000ユーロから4000ユーロの儲けになる。この事実を見れば、銀行員が何故そのような投資方法を薦めて来るのか、日を見るよりも明らかだ。
 
皆まで言えば、この謝礼金は投資したお客の金から支払われる。すなわち投資した金は、投資した瞬間に20%目減りする。これを10年、20年かけて取り返すのがGeschlossener Fondsである。ドイツの消費団体の調査によると、20年物ファンドの90%は20年経っても購入の際に掲げていた目標に達せず、他の投資期間のファンドも「70%は損益で終わっている。」という。滅多に宣伝通りの結果にならないのがこの投資形態の特徴なので、銀行員のセールスや、街角や地下鉄にぶらさがっている「配当金6% +!」という言葉には注意されたし。ドイツ語で、"Der Krug geht solang ins Brunnen."(水瓶を井戸に落としても、直ぐに割れるわけじゃない。」と言う。水瓶を落として、「直ぐに割れないから。」と安心する人は居ないだろう。遅かれ、早ければ、水瓶が割れることは避けられないからだ。しかし灰色投資になると、すぐにお金がなくなるわけじゃない。それどころか、最初は配当金が出る事だってある。だから安心してしまう。しかし20年後には水瓶はやっぱり割れてしまうのだ。
 
そうそう、この風力発電会社は予告通り1月22日に倒産した。「まだ倒産したわけじゃない。」と最後の希望を捨てていなかった個人投資家の夢もつい果てた。この一件は国会でも討議され、同じようなことが今後も起きないような処置を考えるそうだ。が、あまり期待しない方がいい。政府が本当に対策を打つ気があったなら、今回の倒産を待つ必要もなく、過去、幾らでもその機会はあったのだ。大事なのは、「パンフレットに書かれているから。」と印刷されていることを、欲に目がくらんで盲目的に信じてしまわない事に尽きる。


福島原発事故様様。
081.jpg

スポンサーサイト

COMMENT 0