あなたのファイナンシャル アドバイザー (28.01.2013)

何処に銀行口座を開くかで、運命が決まってしまう場合もある。「無料口座だから。」とドイチェ ポスト、すなわち郵便局に口座を開設してしばらくすると、「私はあなたのファイナンシャル アドバイザーです。」という手紙、あるいは電話がかかってくる。手紙には名刺が添えられており、右上に有名な"Deutsche Post"のロゴと名前が入っている。これを見て疑う人は少ない。電話で、「お客様のニーズに合わせたファイナンシャル プランを紹介したい。」と言われると、「まさか(元)国営の銀行が、顧客(国民)を騙すわけがない。」と頭から信用して、ノコノコと銀行に出かけて行く人が多い。席に着くなり、「今、金利が低いので(貯めている)お金の価値はインフレーションにより、日々減少しています。」と脅しにも似たセールスをかけてくる。ドイツ人に「インフレーション」と言うと、日本での「粗品進呈」と同じく、効果覿面。多くのドイツ人がこの親切な行員さんの甘言に乗って、よく理解できないのに投資ファンドに投資する契約を結んでしまった。

ドイチェ ポストの行員のように見えたこの行員、実は"Deutsche Post"と関係のない独立したファイナンシャル アドバイザーである。ドイチェ ポストは新聞広告などで勧誘員を募集、2週間の集中コースを終えると、「プロ」のファイナンシャル アドバイザーに変身する。コース履修者にはドイチェ ポストは会社の名前とロゴの入った名刺が配布される(有料)。同時にポストバンクの顧客の口座へアクセスする権利を与えられて、口座に1万ユーロ以上の「余剰金」がある客の捜索が始まる。特に60代以降のお客は、"AD-Kunde"(ドイツの銀行業界で使用される用語で、Alt und Doofの略。日本語に直すと「頭の弱い年寄り」という意味。)と呼ばれ大人気だ。ターゲットを決めると電話や手紙でセールスをする。鴨が葱を背中にしょって郵便局にやってくると、郵便局に設けられているガラス張りの個室でセールスが始まる。

お年寄りを説得するのは、いとも簡単。こうしてドイツ中で数多くの顧客が理解できない投資ファンドに投資をした。運がいいと、スーパーファンドを呼ばれるコミッションの高い株式ファンドに老後の蓄えが投資されている。知り合いにドイチェ ポストの勧誘員に説得されて、このスーパーファンドに投資したご夫婦が居る。4万ユーロほど投資されたが、4年後には3万ユーロなくした。「待てばきっと回復するよ。」という助言にも関わらず、「これ以上待っていたら、残りの1万ユーロもなくなってしまう。」と心配にかられて解約、「もう二度と株式には手を出さない。」と自身で責任を取った。

運が悪いと、大事な老後の蓄えは "MT Cape Beale" あるいはBUSS-Kreuzfahrtfonds1"と言われるファンドに投資されている。実はこれ、"geschlossene Schiffsfonds"の事で、コンテナ船やクルーズ船に投資されるもの。投資期間は25年~30年。途中解約はできないので、お年寄りには向いていない。船が座礁したり、海賊に拿捕される危険は言うに及ばず、ファンド自体が倒産する可能性が高く、消費者にはリスクが高すぎる。しかし、大きな利点がある。コミッションが滅茶苦茶高いのだ。このファンドを売ると30%ものコミッションが入って来る。だから"AD-Kunde"には、好んでこのファンドが販売された。あまりに効率がいいのでポストバンクは新聞広告で人員を募集、次から次へと「ファイナンシャル アドバイザー」を生み出すと、顧客にセールスをかけまくった。

言うまでもないだろうが、ファイナンシャル アドバイザーが勧めた"geschlossene Schiffsfonds"は、数年後には倒産して、投資したお金は見事に海の藻屑と化した。ポストバンクの顧客は、「銀行に騙された。」とポストバンクを訴えたが、そんな事はポストバンクは先からお見通しである。ポストバンクのファイナンシャル アドバイザーはポストバンクの行員ではなく、ただの個人自営業者だ。このアドバイザーには、ポストバンクから定額のお給料の支払いがなく、ポストの「商品」を売ると、これに比例してコミッションが支払われる形。ここがミソ。つまりポストバンクの社員ではないから、「ポストバンクは個人のアドバイザーのコンサルテイングには責任を負わない。」と一切の責任、関与を否定した。

大概の被害者は、「甘言に載せられて、理解できないファンドに投資した自分が悪い。」と自分で責任をかぶった。しかし裁判が進むと、ポストバンクの怪しげな商売方法が暴露される事になった。例えばコミッション。他の記事でも書いたが、ドイツの銀行で投資契約を結ぶと、幾らのコミッションが行員に支払われるか、明言(明記)しなくてはならない。しかし「ここにサインすると、私に30%のコミッションが入ってきます。」と言った日には、客は逃げて行く。30%もコミッションが支払われる投資では、契約した途端にマイナス30%。これでは4~5年待っても黒字になるわけがない。そこで契約書には7~8%のコミッションと明記していた。これが問題となった。ファイナンシャル アドバイザーが義務を怠っていた事実が証明されたが、個人自営業者に失われた大金が補填できるわけがない。

そこで今、裁判の争点(焦点)は、「ポストバンクがこの投資に責任があるかどうか。」に移っている。ポストが会社名の入った名刺を提供、支店の事務所をセールスに提供、さらには顧客のデータを社員でもない第三者に公開しており、ポストの落ち度(関与)は疑いようがない。そこでドイツ中の弁護士事務所では、「この裁判は勝てる。」と確信、ポストバンクの投資で金を失った投資家を募集している。もし同じようなトリックにひかかかった人で、契約書を破棄していなければ、まだ手遅れではない。弁護士が契約書にミスを見つければ、裁判で勝てるチャンスがある。ちょうどかってポストバンクのファイナンシャル アドバイザーだったドイツ人が(良心にかられたのか、それとも罪償いをしたいためか)テレビに出演して、「ドイツで最大規模の"Drueckerkolone"(詐欺団体)だった。」とポストバンクの商売方法を告白しただけに、原告には有利な環境だ。

公平を期すならば、このような商売方法は何もポストバンクだけではない。"Commerzbank","Deutsche Bank", "Targobank"それにSparkasse"など、ドイツの銀行では何処でも似たような商売方法を取っている。ポストバンクが一番組織的だったため、槍玉に上がっているに過ぎない。皆まで言えば、いかがわしい商売をしているのは、銀行だけではない。ドイツには、「あなたのファイナンシャル アドバイザー」と称して商売をしている"Finanzverwalter"が多い。一番有名なのは、AWDのマシュマイヤー氏。「ドイツ政府が年金支給額をカット、『足らない部分は、各人で年金保険に入りなさい。』と言っています!」という殺し文句でものすごい数の契約を取り、"AWD"は欧州一の"Finanzverwalter"に成長、氏は億万長者になった。頭のいい氏は、その後、会社をスイスの同業者に売却してさらに富を増やすと、ドイツで有名な女優と結婚して「引退」した。その後、「AWDのお陰で財産を失った。」とものすごい数の訴えがあり、ドイツの検察は言うに及ばず、オーストリアでも"AWD"に対して"gewerbsmaessigem Betrug"(業務詐欺)で取り調べを始めた

誰かが大成功を収めると、必ず、その方法をコピーする輩が出現する。「目指せ、第二のマッシュマイヤー!」とばかりに、ドイツには、今、"Finanzverwalter"が跋扈している。「ドイツ人相手だから、(言葉の不自由な)日本人は安全。」と思っていたら、日本人のファイナンシャル アドバイザーまで出現、自宅まで電話をしてきて、「財産を増やすお手伝いをしたい。」と言う。一体、誰の財産を増やす気なのだろう。「アドバイザーが必要になるほどの財産はない。」と言うと、「西さんも副業で、ファイナンシャル アドバイザーになってみませんか。」と言う。「そんな時間はありません。」と言えば、「一度、是非お会いしたい。」と話を摩り替えて来る。相手は日本人。失礼な事を言うと、日本語で陰口を叩かれるのが怖くて、無碍に、「私はあなたに全然会いたくない。」と言えない。結局、電話で20分も粘られて、仕事が全く先に進まなかった。

こうしたファイナンシャル アドバイザーの商売方法はさまざま。大概は上述のように"geschlossene Schiffsfonds"を売るか、役に立たないリースター年金を売って来る。賢い会社は、「不動産に投資してみませんか。」と巧い手を使う。話を聞けば、東ドイツに会社が大金を払ってレノベーションを済ませた高級住宅があるという。「市内の不動産は価値が上昇する一方なので、今、これに投資しておけば、もう老後の心配はありません。」と言う。「確かに『不動産』というからには、かなり確実な投資かもしれない。」と思い始める。「しかし不動産を買う資産がない。」と言うと、「待ってました!」とばかりに、「ドイツ銀行がお金を貸してくれるので、心配ありません。」と、ドイツ銀行のローンの契約書を差し出してくる。「ローンの返済ができるかどうか心配だ。」と懸念を口にすると、「高級住宅ですから、すぐに借り手が見つかって、その家賃でローンは十分にカバーされます。」と言う。つまり、自己資産ゼロ、銀行の融資100%で不動産を買い、毎月のローンの返済もなく、契約書にサインをするだけで高級住宅が手に入るという訳だ。

まるで夢のような話を聞かされると、その高級住宅を見る事なく契約してしまったドイツ人の多い事。ドイツ語で、"Man kauft nicht eine Katze im Sack."(袋に入った猫は買うものではない。)と物も見ないで、盲目的な買い物をする事を警告しているが、よりによってそのドイツ人がこの手にひっかかている。この高級住宅だが、実は写真用に外見だけペンキを塗った映画のセットのような住宅で、トイレの水は地下水に溢れて悪臭が漂い、アパートはカビだらけ。あまりにひどい惨状で借り手が見つからず、家賃収入が入ってこない。突然ローンの返済に迫られると、「何かがおかしい。」とようやく警笛が鳴り始める。高級住宅を一度見てみるべく東ドイツ(往々にしてライプチッヒ)まで出かけてみると、それは立派な住宅。「なんでこんな立派な住宅が空なの?」と思い、足をアパートに踏み入れて、やっとその惨状を目(鼻)にする事になる。アパートは全く価値のない代物で、残ったのはドイツ銀行への30年ローン。"Viel Spass damit!"

中には、「そんなに効率よく儲かる(騙せる)なら、私もファイナンシャル アドバイザーになりたい!」と思われる方も居るかもしれない。人生は甘くない。このファイナンシャル アドバイザーは一種のネズミ講。すなわち、自分の紹介で誰かをファイナンシャル アドバイザーに獲得すると、その人が獲得した契約のコミッション(ここでも30%)の半分は、紹介人であったファイナンシャル アドバイザーの取り分になる。もっとも手取りは半分。半分はまたしてもこのファイナンシャル アドバイザーの紹介人だった古参のファイナンシャル アドバイザーに支払われる。つまり自分では一切契約を取ってこなくても、たくさんファイナンシャル アドバイザーを獲得して、このファイナンシャル アドバイザーが契約を取ってくれば、自分のお給料が倍増するシステムだ。だから「あなたもファイナンシャル アドバイザーになってみませんか。」と誘ってくる。何もあなたの副業の為ではなく、自分のお給料を倍増するが為である。

その他にも、ファイナンシャル アドバイザーの手管は多岐にわたっており、とてもそのすべてをここで紹介するわけにはいかない。うまい話は要注意。ファイナンシャル アドバイザーの目的は、あなたの財産からできるだけ多くの利益を絞り取ること。本当に美味しい話なら、わざわざ他人に紹介しないで、自分で買い取り、それでも余った分は家族、親族で買い占めている。それをしないで客に勧めてくること自体、危険な証拠である。



目指せ、第二のマッシュマイヤー!
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