冬タイヤ 続編 (06.11.2010)

この時期になると決まって話題になるのが、冬タイヤ。これについては2008年にこちらで詳しく取り上げておいたので、「このテーマについてもう書く事はないだろう。」と思っていたが、ドイツ人はそう甘くはなかった。雪の中、夏タイヤで走行、事故を起こしたドイツ人が、「『交通法の何処にも、冬タイヤを装着するべし。』なんて書かれていないじゃないか。」と、課された罰金に対して(ドイツ人らしく)裁判所に訴え、(ドイツらしい事に)勝ってしまった。これに怒ったのが運輸大臣。「重箱の隅をつつくような輩に逃げ口上を与えないように、10月までに法改正をする。」と宣言して、冬タイヤを巡る熱い議論、「義務なの?それとも義務じゃないの?」に、さらに油を注いだ。

毎年恒例の休暇を終え、ドイツに帰国したのが10月下旬。この時期には標高の高い南部では最初の積雪があるので、そろそろタイヤ交換の時期だ。しばらくドイツのニュースを見ていなかったので、一番先に会ったドイツ人に、「冬タイヤは結局、義務になったの?」と聞くと、「ああ、導入されたよ。ある特定の温度を割ると、装着が義務になる。」と語ってくれた。怪しげな言い方、「特定の温度を割ると、、。」が気になって調べてみたら、真っ赤な嘘であった。なんでドイツ人は、「俺は知らない。」と素直に言えないのだろう。ドイツに在住の方なら、周囲のドイツ人にこの点、お尋ねしてもらいたい。正確な答えを言えるドイツ人はまずいないだろう。この事実が、「ドイツの事なら、ドイツ人が一番良く知っている。」という誤謬を証明している。冬タイヤに限らず、ドイツ人の意見は真に受けない方がいい。「知らない。」「わからない。」と言うと、面子を潰すことを恐れて、作り話を聞かされるからだ。ドイツ人がこの様なので、「ドイツに住んでいた事がある。」という人の意見はもっと怪しく、これがドイツ伝説を作る根源になっている。

では、事実はどうかといえば、2008年の時点と何も変わっていないのである。運輸大臣が、「10月中に交通法規を改定する。」と、公言してしまったのが原因で、11月になると、「義務になった(に違いない。)」と、思い込んでいる人の多い事。しかし法規は一向に変更されていない。とはいっても、今年中の交通法規の改正を目指して協議中なので、交通法規が変更されることはおそらく間違いないだろう。洞察力のするどい方なら、「なんで交通法規の一部を改定するのに、そんなに時間がかかるの?」と、思われるに違いない。これには2つの理由(原因)がある。まず単に冬タイヤと言っても、この名前は国民の間で使用される口語で、正確な用語ではない。もっとわかりやすく言うと、「冬タイヤ」という名前で販売されているが、実際に雪の上ではまったく役に立たない(名前のないメーカー製造の)冬タイヤが多い。そんな冬タイヤ装着を義務にしても、あまり意味がない。なので、この点を法律でどう規定するか問題になっている。次の問題は現行の法規で問題になった、「天候に合わせたタイヤを装着すべき。」という点。例えば、カレンダーで定義尾して「冬は冬タイヤを装着すべき。」とやってしまうと、4月(春です。)になって雪が降っても、冬タイヤの装着義務がない事になる。あるいは前出のドイツ人のように温度で冬タイヤ装着を義務にすると、雪が積もっているのに気温が7~8℃あると装着義務はないということになる。これをすべてクリアする用語を選ぶのに時間がかかっている。

この曖昧な状態は、タイヤ業界にとって棚から牡丹餅。「冬タイヤ装着義務導入!」と大いに宣伝、タイヤを製造しているコンチネンタルの株価は急上昇した。さらには、「ドイツで登録されている数百万もの車に冬タイヤを装着すると、タイヤの製造が追いつかない!」と、恐怖心を煽った。何も知らない消費者はこれを真に受けて、冬タイヤを購入、タイヤ業界は笑いが止まらない。まあ、大不況でタイヤの販売に苦しんだ業界だけに、一種の景気活性化政策と思えば、この程度の誇張は大目に見てもいいかもしれない。それに冬に冬タイヤを装着するのは誤りではないから、許される「嘘」の範疇に入るのかもしれない。

尚、交通法規改正にあたっては、ドイツの運輸大臣は周辺諸国、あえて名前を挙げればオーストリアの交通法規をそのまま借用、もとい、参考にできる。オーストリアでは、"winterliche Strassenverhaeltnisse(冬の道路状況では)"「冬タイヤを装着するべし。」と明確に規定、さらには「11月1日~4月15日までは冬タイヤ装着義務期間」と適用期間も補足している。お陰でオーストリアでは「冬の道路状況と書かれているだけで、雪が降っていたらとは書かれていないじゃないか。」と裁判所に訴える輩は出ていない。おそらくドイツの交通法規も似たような文面になる事だろう。オ-ストリアにスキー休暇に出かける方は、まさか夏タイヤでスキーに出かける人は居ないだろうが、注意されたい。尚、2010年から「それでも」夏タイヤで走行しているドライバーへの罰金が、20ユーロから40ユーロ、夏タイヤが原因で路上、路肩で動けなくなったドライバーへの罰金が40ユーロから80ユーロと倍になったので、雪が降っている日、あるいは雪が予報されている日は、車を家に置いて電車で通勤しよう。80ユーロも罰金(おまけに1点もらえてしまう)を払うなら、往復、タクシーで通勤したって安い。

編集後記
11月26日、冬タイヤの義務化が国会を通過、12月04日から施行される事となった。雪が降っている、あるいは路上に雪が残っていると、冬タイヤあるいは、M+Sの印の入ったAllwetterreifen(冬タイヤと夏タイヤの中間のタイヤ。)の装着している必要がある。冬タイヤという名前で売られいても、3角頭の雪印が入っていない(役に立たない)冬タイヤもあるが、これは大目に見られる事となった。「3角頭の雪印?」「M+Sって何?」と言われる方は、冒頭で述べた通り、過去記事を参照ください。

追記
ドイツ語でタイヤ交換は、"Reifenwechsel"と"Raederwechsel"の2種類がある。前者は古くなったタイヤをホイールから外して、新しいタイヤに履き替える際に使う。後者の場合は、すでにホイールについている冬タイヤを、夏タイヤに取り替える際などに使う。だからレースで車、オートバイがピットレーンに入って行うタイヤ交換は"Raederwechsel"である。テレビの解説では間違って、"Reifenwechsel"と言っているが、これはドイツ人でも誤ってドイツ語を使用しているいい例である。
          

"Raederwechsel"
安い工場(領収書なし)では12ユーロ。目安/平均は20ユーロ程度。
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