Winterdienst (14.01.2010)

「ドイツの冬は一面雪景色!」と勝手に想像していたら、全然、雪が積もらない。標高が800mを越える「高地」に住むなら話は別だが、標高165mのSandberg(砂山)がデユッセルドルフの最高峰。これじゃ雪が積もらないのも当たり前。デユッセルドルフは冬季、ドイツでも最も温暖な地域で、市内での積雪はとても珍しい。ところが2010年は積雪の当たり年。すでに2回の自宅の玄関の雪かきを「体験」。こんなに多くの積雪量を(ドイツで)見た事がない。ところがドイツでは、見渡す限りの一面雪景色を暖かい部屋から見渡して、「綺麗だな~。」と感心していると、痛い目に遭う事がある。

雪が降った際の市民の最大の義務は、アパート、あるいは家の前の歩道の雪かき&滑らないように砂利蒔きだ(ドイツ語で"Winterdienst"と言う。)。これを怠って、歩行者が凍った歩道で転んで骨折などした場合、歩道の雪かき(&砂利まき)義務を怠った者の過失となり、たんまり慰謝料を請求される。アパートに住んでいる場合、通常は大家が管理人に、あるいは雪かきを商売としている業者にこの責務を任せるものだが、これにはお金がかかる。そこで大家は賃貸契約書に、「積雪時の義務は賃貸人が負う。」と書いている場合がある。これは違法ではないので、要注意。何も知らないで契約書にサインしてしまうと、雪が降る度に、早起きして雪かきをする羽目になる。この義務は、そんな契約書にサインしてしまうと、日本に休暇で帰っている場合でも有効だ。そんな事を知らないで休暇に出かけている間に大雪、歩行者がアパートの前の凍った歩道で転んで骨折、会社に出勤できないので、その損害賠償を求められたら目も当てられない。

こうした背景があって、ドイツでは雪が積もると市民が揃って早起きして歩道の雪かきをしているので、感心してしまう。もっともこの義務感は何も「隣人愛」とか、「良市民の義務感」から出ているのではなく、慰謝料支払いを未然に防ぐため。この雪かきの義務でちょくちょく問題になるのは、「夜に雪が降って、雪かきをする前、早朝に歩行者が転んで怪我をした場合、慰謝料の請求はできるのか?」というもの。これは実際に判例がある。朝の5時に出勤途上の会社員が歩道で転んで怪我を負い、入院する羽目になった。会社員は、「雪かきをしていなかった。」とアパートの所有者にかなり高額の慰謝料を要求した。しかし裁判官は、「市民に朝の5時に歩道の雪かきを義務として課すことはできない。」と理性のある判決を下したので、安心して熟睡できる。もっとも条例好きのドイツでは、朝の7時~夜の20時までは"Winterdienst"の必要な時間としっかり指定されているので、この時間に雪が降り始めると「いざ鎌倉。」である。

市民の義務は知っていても、正直、休日などに朝の7時に起きて雪かきをするのは辛い。又、雪かきをしたくても、すでに凍ってしまっていたりして、どうにもならない事がある。そんな時は塩を撒けばいい。キッチンの塩だとお金がかかるのでBaumarkt(ホームセンター)などでStreusalz(Auftausalzとも言う。)を買ってこよう。25Kgも入った岩塩が、たったの10ユーロほど。これを撒けば凍った雪も、ナメクジのように30分ほどで溶け出す。ただし、岩塩は環境に影響を及ぼすので、幾つかの地方自治体では家庭でこの岩塩を歩道に撒くのが禁止されているケースもある。お住まいの地区で「塩撒き」が禁止されているかどうか、市役所に尋ねる(信用できる)か、店頭の販売員に尋ねて(信用できない)ください。

この時期になると毎年話題になるのに、誰も正しく理解できていないのが、冬タイヤ(日本でいうスノータイヤ)の装着義務について。これについてはこちらで説明していおいたので、詳細はそちらを参照ください。積雪があった場合はこれに加え、車の所有者(運転手)には、別の義務も発生します。まず車のボンネットや屋根に積もった雪を書き落としてから、運転すること。「運転していれば落ちるだろう。」という安直な考えで運転していると交通法規違反で、(警察に見つかると)罰金を課せられる。これに加えて、(外に駐車していた場合は)ガラスの「霜取り」をしてから、運転すること。「運転しているうちに解けるだろう。」という安直な考えで運転していると交通法規違反で、(警察に見つかると)罰金を課せられる。それよりも怖いのが、こうした義務を怠って事故を起こした場合だ。ドイツでは「事故を起したら、いつも保険が払ってくれる。」という日本のような甘い/恵まれた環境はない。保険会社が、「非保険者に重大な過失がある。」と判断した場合、保険会社は保険の適用を拒否するので、全部、自腹になる。みなまで言えば、警察に止められて、「じゃ、洗浄剤を出してみて。」と言われて、車のガラス洗浄剤が凍って出てこない場合、またしても罰金を課される。車を外に止める場合は、(洗浄剤が凍る前に)不凍液を買ってこれを混入しておこう

不凍液と言えば、以前、ドイツのワイン農家がワインの「糖分」を上げるため、ワインに不凍液を混入した事件があった。不凍液は甘い味がするらしく、出来損ないのワインに不凍液を加え、アイスワインを造るのはワイン詐欺の古典だ。アイスワインは日本で人気なので、「このアイスワイン、安~い、甘~い。」なんて喜んでいると、実は不凍液を呑んでいることもあり得る。中国では粉ミルクの製造業者が、ミルクを高く売るために、毒物を混入したことがあったが、ほぼ同じ程度のレベルである。ドイツではこの不凍液混入が明らかになっると、売れ残っやワインの処分に困った。量が多い上、微毒性があるのでトイレに流すと、衛生局に叱られる。そこで天の恵みの大寒波がやってきた。寒波がやってくると道路が凍るので、通常は塩を撒きますが、まだ凍っていなければ不凍液の方が効果的。そこで豪華に道路にアイスワインが撒かれた事がある。

最後に積雪時の市民の権利について。ドイツでは毎年、雪が降ると電車が遅れる。電車が来ないと、出勤にも困ってしまう。そこで、「積雪で電車が来ないので出勤に遅れたら、責任は誰が負うの?」とか、「積雪のお陰で電車が遅れて飛行機に乗り遅れたら、ドイツ鉄道はお金を補填してくれるの?」などという疑問が沸いて来る。ドイツらしいことに、たくさん判例があるので、ここで紹介してみよう。まず出勤の場合だが、例えば前日から大雪注意報が出ている場合、「被雇用者は天気予報に対応して、それ相応の対処をする義務がある。」と判決が出ている。つまり積雪が原因で出勤に遅れても、その責任は自分で負うことになるので、上司も遅れて出勤することを祈るしいかない。逆に予想よりも厳しい寒波が来て電車が欠落する場合は、出勤に遅れても被雇用者にその責任を負わせることはできないとの事。又、電車が遅れて折角の休暇を空港で過ごす羽目になった場合だが、これは保険業界で使うhoehre Gewalt(不可抗力)に当たり、ドイツ鉄道には休暇の費用を補填義務はない。これはストも同じ。「明日は雪/ストになるかも?」と心配したら、前日に出発、空港付近で前泊するなどして、自分で対抗策を講じる事が必要になる。

補足。知らないで法規を破ったり、あるいは遵守しなかった為に、罰金などを課されて、「私に責任はあるんでしょうか。」と相談をいただく事がある。面白い例があるので、この機会に紹介しておこう。ドイツのサッカーナショナルチームのキャプテンだったバラック氏がスペインの高速道路を211kmhで走行中、記念写真を撮られてしまった。これだけのスピード違反だと、軽犯罪になり、氏は書類送検された。公判にて氏の弁護士は、「ドイツにはスピード制限がない為、スペインも同じだと思っていた。」などと「無知」を理由に挙げて無罪を主張した。悲しいことに裁判所はこの言い訳を全く信用せず、1万ユーロの罰金、及び免停の判決を下した。この例からもわかるように、又、ドイツ語で"Unwissenheit schuetzt vor Strafe nicht."(無知は罰則から守らってくれない。)という通り、法令を知っていようが知っていまいが、法令はお構いなく採用されます。



朝から雪かきはしんどいが、慰謝料払うよりはマシ。
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