愛しのマイホーム (14.08.2009)

「どうせ家賃を払うなら、いっそ家を買って、家賃の代わりにその返済をしてはどうですか。」というおいしい話を銀行で聞かされる。「そんなものかな。」と油断してしまうと、「今の安い金利を利用しない手はありません。」と追い討ちに遭い、「確かにその通りだ。」とあっさりと説得されてしまうドイツ人が多い。果たしてこの行員は、客の将来を心配して面倒を見てくれているのだろうか。勿論、そんな事はない。銀行業とは元来、金貸し業である。客に家を買わせることができれば、最低でも20年、運がよければ40年も甘い汁を吸うことができる。さらには銀行が融資した「マイホーム」も、(最後には)銀行の所有物となり、これほど効率のいい商売はない。そこで今回は、ドイツでマイホームを買う/建てる際の「落とし穴」について、紹介してみよう。

銀行の狙いは、収入が1300ユーロ程度/手取りの中間低所得者だ。この層に限って子沢山なので、2~3人も子供が居る。「子供のために、庭のある家に住みたい。」とドイツ人は考える。まるでこちらの考えを読んだかのように銀行の貸付部門からセールスの電話がかかってきて、「今の安い金利を利用して、家を購入してみてはどうですか。」と誘われてしまう。銀行まで出かけて話を聞けば、銀行が太っ腹にもこの低所得者に20万ユーロも融資してくれるという。これでマイホームの夢がぐっと近くなる。肝心の借金の返済だが、毎月たったの500ユーロ。これじゃ、今払っている家賃と全く変わらない。なら家を買ってローンを払ったほうが、最後には家が自分の物になり、良いことずくめではないか!40年ローンというほとんど実行不可能なプランにも関わらず、ドイツ人がコロリと騙されてしまうのがこの殺し文句、「同じ家賃で家が買えてしまう。」である。

そんなにマイホームの購入が簡単なら、アパートを借りて住む人は少数派だろう。ところが実際にはその逆だ。現実はそんなに甘くない筈だが、親切な行員さんの甘言に載せられて融資の書類にサイン、保証人としてすでに退職している両親にサインをしてもらう。こうして人生の半分以上もの長きに渡る借金生活が始まる。きっかけは、些細な事から始まる。仕事のストレスで酒を飲むようになったり、仕事場の若くて綺麗な女性社員に誘惑されてしまったり、あるいは仕事中、通勤の際の不注意で怪我をしてしまう。こうして次第に出費が増えて、次第にローンを払うのがしんどくなる。家のローンを払うため、他の銀行にローンを頼むことになり、そのローンの返済を含めると、毎月700ユーロも返済することになる。ここで旦那が首になるか、会社が倒産、あるいは若い女性社員と一緒に蒸発してしまう。残ったのは30年ローン。ローンの支払いが滞ると銀行から、「待ってました!」とばかりにローンの解約の手紙が届く。そこには「残る15万ユーロを来月末までに返済されたし。これがなされない場合は、家を競売にかけ、足りない場合は保証人に請求します。」と書かれている。これまで500ユーロ/月のローンも返済できなかった家庭に、1ヶ月で15万ユーロも払えるわけがない。

こうして銀行は、不幸に見舞われた家族を家から追い出して、まんまとマイホームを手中にしてしまう。これを競売にかけると、銀行で安く競り落とす。ローンの返済に不足する分は、保証人/両親に請求、両親が返済できない場合は、両親の家まで競売にかけて、これも銀行で競り落としてしまう。手中にした不動産を修繕、改築すると、銀行の不動産部門で競り落とした値段の3~4倍の値段で売る。このようにして、銀行は一回の融資で不動産を2件も獲得することができてしまう。これほど効率のいい商売はない。こんなのはまだ序の口で、「本当の落とし穴」はこれから。

例えばすでに建っているWohnung(や家)を買うケース。建物は、新しければ、新しい物ほど人気が集まり、築20年を過ぎると買い手が付かない日本と違って、欧州では古い家屋の数が少なくない。ドイツの都市部では戦争でほとんどの家屋が破壊された為、40年代~50年代に建てられた建物が多い。こうした建物は違法に建てられているケースがある。戦後のどさくさで誰も確かめなかったので、空き地に家を建てて、これが今日まで「発見」されないで、残っているケースだ。知らないでそんな家を買って家屋の登記に行くと、「この建物は違法に建てられていますね。これは取り壊しをしなければなりません。」と言われて、大金を払って、ローンを組んで買ったばかりの家が取り壊しになる事も(冗談ではなく)本当にある。「この家屋は今まで60年も建っており、これまで誰も文句を言わなかったのに、今になって取り壊しなんて冗談でしょう。」と言っても、ドイツの役人には感情は通じない。役人は杓子定規で判断するのが仕事であり、その判断で誰かが破産するかどうかちっとも興味がないし、そんな事は仕事ではない。そんな目に遭わない様に、家を買う前にまずはちゃんと家屋が正しく登記されているかどうか、確かめておこう。

その他にもドイツでは悪名高いBauvorschriftenというものがある。これは家屋の大きさ、高さ、屋根の色、家屋に使用される建築資材を指定するもの。厳しい場合は、部屋の大きさ、高さまで指定されている。これを調べないで、家屋を買ってから上述のように登記に行くと、「この家はBauvorschriftenよりも10cm高く建造されていますね。これは取り壊しをしなければなりません。」と言われて、大金を払って、ローンを組んで買ったばかりの家が取り壊しになる事も(冗談ではなく)本当にある。「10cmの違いなんか、誰が見てもわからない。」と言っても、ドイツの役人には感情は通じない。役人は杓子定規で判断するのが仕事であり、その判断で誰かが破産するかどうか、ちっとも興味がないし、そんな事は仕事ではない。。そんな目に遭わない様に、家を買う間にまずはちゃんと家屋がBauvorschriftenに沿って建てられているか、確かめておこう

さらにはドイツには悪名高いDenkmalschuetzというものがある。これは古い家屋を「記念物」に指定して、後世に残そうという、当初は「立派な意思」で導入されたものの、役人に悪用されているのが現状。家屋が「記念物」に指定されてしまうと、建物の外観はおろか、内装まで変更をすることができないので、買い手がつかなくなり、マイホームの価値が激減する。記念物に指定されても、地方自治体から金が出るわけではないので、何も得をすることはない。この為、「建築記念物」に指定された家屋を買うのは要注意。又、購入の時点では記念物に指定されていなくても、登記に行くと「おめでとうございます。記念物に指定されました。」などと「癌の宣告」を受ける事もある。「ぼろ家屋を改築して、賃貸アパートに改造して、一儲け!」なんて考えていると、「改造はできません。そのまま使ってください。」と言われてしまう。エレベーターもない6階建ての建物に住みたいと思う人は少ないので、これでは家賃を下げないと賃貸人が見つからない。だからドイツでは、「記念物」に指定されると、家主が怒って家屋に火をつけて燃やしてしまったり、ガス菅に細工して、アパートを文字通り木っ端微塵にしてしまう事がある。デユッセルドルでも大家が自分のアパートのガス管に細工してアパートを爆破、アパートに住んでいた住人6人を殺害した事件があった。そんな目に遭わないように、家屋を買う前に建物が記念物に指定されてないか、ちゃんと確かめておこう。

これらはまだ「序の口」で、本当の危険はこれから。ドイツには炭鉱が多かったので、地下はスイスのチーズのように穴だらけ。炭鉱が廃坑されて20年くらいは何も起きなくても、地殻の移動でこの穴が突然潰れることがある。あるいは、かっての炭鉱に水を流し込んで人口の湖を作る際、流れ込んだ水が炭鉱の壁を流してしまい、地殻が崩れてしまう事もある。すると表面(地上)には突然、ぽっかり穴が開いて、地上に建てられていた家屋は「落とし穴」に吸い込まれてしまう。そんな目に遭わないように、近くに炭鉱がなかったか、ちゃんと調べてから家屋を購入するようにしよう。

その他にも、建築会社が手抜き工事をするのは、「当たり前」で、中には計画倒産するケースもあり、マイホームの夢は前途多難。額が額だけに一度、失敗するともう取り返しがつかないのが、マイホームの怖いところ。にもかかわらず、「ドイツでマイホームを!」をお考えの方は、その道の専門家を雇ってアドバイスを受けることをお勧めします。


何も知らないで家を買うと、

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朝起きたら半分になっている。
        
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COMMENT 4

英一  2012, 11. 09 [Fri] 15:41

No title

銀行は金利をちゃんと支払ってくれる貸付先が無いと破たんするもの。銀行に集まる預金は銀行にとっては借金と同じですからねぇ・・・。
ドイツ国債の金利低迷からするとそうとう銀行は貸付先に困っていると見える。国債買うぐらいしか安定した貸付先がないってことですわな。
低所得者から吸い上げる位の事を平気でやらないともはや銀行はやってられんってことなのかな。だとしたらいろんな意味で相当マズイ。

頭のいい人達は、人々の血と涙と汗に塗れた夢や希望を金に換えるのがうまいやね。

騙される人がいなけりゃこんな商売成り立たないんだろうけども・・・やれやれ。。。

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general  2012, 11. 09 [Fri] 19:52

愛しのマイホーム

こんにちわ。

ドイツ銀行では企業などへの融資は、銀行の売り上げの16%程度です。個人融資は、「その他」に含まれるほど、割合が小さいです。

ドイツ銀行の売り上げの46~48%、つまりほぼ半分は"Derivatehandel"と呼ばれる「賭け」商品から出ています。

ドイツの地方自治体がこの"Derivatehandel"の商品を「地方財政を改善するいいチャンス。」として交わされて、見事に税金を掏っていました。

地方自治体でこの様ですからね。
個人なんかイチコロですよね。

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英一  2012, 11. 15 [Thu] 02:20

なんですとー

企業・個人投資でたったの約20%・・・。
賭け商品が売り上げの半分ってことは詐欺まがいで稼ぎださないといけないってのと同じ。

あとは手数料収入、金融市場でのギャンブル、国債ってとこだろうか。。。

もはやだいぶ前から銀行本来の業務ではやっていけてなかったわけだ。
こりゃ恐ろしい。
いずれ日本もこうならざる得んかもしらんけど・・・。

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general  2012, 11. 15 [Thu] 19:20

愛しのマイホーム

こんにちわ。

おっしゃる通り、預金は銀行にとって借金と同じですから、この金を使ってお金を効率よく稼ぐ必要があります。

だから、あるいは金に目がくらんで、危険なギャンブルに手を出すんです。

JP Morganのロンドン支店が、このギャンブルで失敗、30億ユーロお金を失いましたよね。

客の預金を使って、このギャンブルを行う事を許していると、2008年のリーマンブラザースの二の舞になりかねません。

この為、銀行の投資部分を投資信託銀行として独立させて、預金者の金を管理する銀行と区別する試みがなされていますが、銀行ロビーが猛反抗しています。

銀行の頭取の誕生日を首相官邸で祝うような現政権下では、この改革は通らないと思います。

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