FC2ブログ

ドイツで悠々自適の年金生活? (31.10.2012)

ドイツで長く生活するに比例して、段々心配になってくるのが老後の蓄え、つまり年金だ。当初は数年の滞在のつもりなので興味もなかったが、何時の間にやら長期滞在。「日本に帰っても景気悪そうだし、このままドイツに定住しちゃおうか?」と考えるものの、これまで関心がなかった上、言葉の壁があって、ドイツの年金システムは未知との遭遇。しかし、面倒なことは先送り。そこで50代になってから、本気で心配するようになり、「個人年金を始めようと思います。」という人にお会いする事が度々ある。老後の事が心配のあまり、「年金」という言葉を聴くと、とても安全なもののように思えて契約される方も少なくない。相談をいただいた場合、「辞めた方がいいですよ。」と助言するのだが、「老後が心配で。」と論理が通じないケースがほとんどだ。そこで今回はドイツの年金に関する落とし穴について、詳しくみてみよう。

老後が心配で、50歳になってから保険金融機関に相談に行くと、「17年後(ドイツは67歳から年金受給開始)には、これだけの年金が貯まります。」と夢のような話を聞かされて、「ドイツの達人が言っていたより、全然、いいじゃん。」と契約書にサインすることになる。しかしここで聞かされる夢のような年金は、"freiwillige Ueberschussbeteligung"(任意の利益配当)を加算したもの。これは「2008年のリーマンショックのような金融危機などなく、保険期間中は順風満帆で、保険会社が最大限の利益を出した場合、これだけの利益配分を行います。」という希望的観測に過ぎない。「どんなことがあっても支払います。」と言う保障利率は、2012年から1.75%に下がってる。これは銀行、保険会社がリーマンショックは言うに及ばず、ギリシャなどの国債に投資していた為、これまでの保障利率の2.5%が払えなくなった為、保証利率が下げられたのだ。つまり2.5%の利率も払えない保険会社が、任意の利益配当を出すと思うのは、かなり楽観的。困った事に保険の勧誘員は、こうした事実には一切、言及しないで、最初から最後まで、「こんなに年金が出るんです。」と言うばかり。実際に契約してみると、15ページにも及ぶ細かい文字でびっしりと書かれた契約書の何処かに、「保障利率1.75%」と書かれているが、これに気づくのは17年後。すでに時遅しである。

言う間でもなく1.75%の利率では、インフレによる物価の上昇率の方が高く、実際には、お金(の価値)を失っている事になる。それも17年もの長期間。そんな目に遭わない為に、くれぐれも「親切な行員さん」のおいしい話に注意されたし。それでも17年も我慢できたら、まだマシな方だ。実際にはドイツ人は90%もの確立で、生命保険/個人年金を早期解約している。日本人でも大差ないだろう。問題は早期に解約した場合の、「罰金」だ。早期解約になった場合、年金契約を取った勧誘員へのコミッション+保険会社の最低限度の儲けが差し引かれる。この為、3年程度で契約を解約した場合、返済額はほとんどない。5年間頑張った場合は、40~50%がキャンセル料として徴収されてしまう。幸い、2012年に最高裁判所の判決が出て、この法外なキャンセル料は違法と判断されたが、生命保険/個人年金を途中で解約すると多額のキャンセル料を取られてしまうことには変わりない。
          
では、一体、どうのように年金をかけるのが理想的なのか。それにはまず、ドイツの年金制度を詳しく解析して見る必要がある。そもそも年金は、国民に老後の準備を任せるとうまく行かないので、国が国民に代わって、国民の老後の蓄えをする事から始まった。ところが前シュレーダー政権が抜本的な年金システムの改革を行い、「国民年金の支給額を減らすので、別個に各人で補助年金を積み立てなさい。」と、やってしまった。つまり過去に試してうまくいかなかった方法に戻したわけだ。これには理由があった。ふんだんな政治献金でシュレーダー政権の誕生を可能にした保険金融機関、AWDを代表とする保険業界に、そのお返しをする必要があったのだ。その結果、ドイツの国民年金からの支給額は減額され(振込み額は変わらない)、「不足する分は、AWDなどの保険金融機関で補いなさい。」という理不尽な年金システムが出来上がってしまった。
          
変更はそれだけではない。同政権はさらに年金に税金を課すことにしたので、国民年金の支給額はさらに減額した。この苦薬を国民飲ませる為、政府は補助年金に国から補助金を出して、苦い丸薬をなんとか飲み込ませることにした。保険金融業界はこのプレゼントを利用して、「国が補助金を出すんですよ。これをみすみす逃してしまう手はありません。」と消費者に呼びかけることにより、「申請しないと損をしちゃう。」という錯覚を脳裏に埋め込むことに成功、保険業界はかってない盛況に沸いた。こうして誕生したのがRiester-Rente(リースター年金)と呼ばれる、補助年金である。この年金に加入すると、国から補助金(154ユーロ/人/年)が出るシステムで、自営業者を除き、誰でも加入できる。

と書くと、「私も急いで加入しなくっちゃ!」と思われるかもれないが、ここはドイツである。現実はそんなに甘くない。大体、政府がただで補助金を出すわけがない。年金を受給する際にリースター年金には100%、税金がかかる。国民年金は50%。こうして政府払った金の大部分を回収しており、実際にリースター年金者が国から「ただ」でもらえる補助金はわずか数ユーロ/月である。リースター年金に加入するよりも、日本料理レストランに行く回数を1回減らして、その金をTagesgeldkonto(利率1,2~2%)に入れたほうが。余程金がたまる。だから、そんなに急いで加入する必要はない。それにリースター年金の本当の欠点はこれからだ。

金融会社にとって、真面目に年金の払い込み額を積み立てているだけでは、儲けが薄すぎて商売にならない。そこでいろいろ「工夫した」。まずリースター年金に申し込んむ人の寿命を、ドイツ人の平均年齢(男性77歳、女性82歳)ではなく、90歳までの長寿として計算することにした。これは何も年金受給者の健康を祈っているわけではなく、年金の受給年数が長ければ、それだけ支給額が低く設定できる上、しかも払い込んだ年金を全部支払う前に死んでしまう可能性が高くなるので、保険会社が儲かる為だ。こうして人道的な保険会社でも80代、その他の保険会社では90歳~100歳まで長生きしないと、「元が取れない。」年金システムが、「政府化の補助金が出ます!」という釣り文句で公然と売られる事になった。しかし、それままだいい方で、払い込まれた掛け金を株式投資に投資する、株式リースター年金が登場した。

この年金は、掛け金として振り込まれた金を単に積み立てないで、株式や不動産に投資する方式である。何故これがおいしい商売かと言うと、まずリースター年金を申し込むと、契約を(騙し)取った行員に、たんまりとコミッションが出る。コミッションは掛け金によるが、4桁のコミッションが出るので、行員にはとってもおいしい。このおいしいコミッションは、何も知らない客が、自分の年金の掛け金として払い込んだお金から支払われるので、最初の1年はまず行員のコミッションを払うことになる。さらには株式リースター年金に申し込んだ客からは、株を買う際、株を売る際にさらにコミッションを取る事ができて、1粒で三度おいしい。こうして多くの人が株式、あるいは不動産株式リースター年金に加入してしまった。

株価が上がり続けるなら、皆、投資でお金持ちになり、真面目に働く人は居ないだろう。現実はそうでない事は、株式投資をしてない人でも、察するべきだった。今度は80年おきに一度と言われる、経済危機がやってきて、株価が暴落した。これに比例して、株式リースター年金に申し込んだ人の預金額も暴落した。効率よく年金を儲けようと画策した人の年金口座の残高は、見るも無残に払い込み額を割ってしまった。それでもまだ幾分か払い込んだお金が残っていればまだいい方で、リーマンの証券を買わされた人もおり、払い込んだ年金の掛け金を全部すってしまっている。ひとつ面白い話がある、上述の財産管理会社AWDはスイスの生命保険会社に買収されたが、AWDの保険勧誘員の悪態がテレビ、週刊誌で報道されてしまい、悪徳保険会社の代名詞となってしまった。これでは「百害あって、一利なし。」である。そこで数十億ユーロも金を払ってAWDを買収したスイス ライフは、AWDという名前を廃止、来年からはスイス ライフ ベスト セレクトの名前で保険を販売すると発表した。

公平を期すなら、どこの保険会社、銀行でも年金の相談に行って提供される中身は大差ない。保険勧誘員と保険会社に最大の利益が出る製品を勧められる。悪い事は言わないから、ドイツで大きな金額の契約書にサインする場合は、行員の売り文句を信用しないで、契約書のコピーを消費者センターにもっていき、相談費用を払って中身を吟味してもらおう。もっといいのは最初から消費者センターに行き、相談料を払ってみっちり落とし穴について教えてもらう事だ。年金の相談料は決して安価ではないが、これをけちって、老後の蓄えを棒に振ってしまうのでは、割に合わない。

消費者団体や経済団などは声を揃えてリースター年金を非難したが、「リースター年金は唯一正しい方法。」と、政府はあくまでも国民にリースター年金への加入を勧める態度を崩さなかった。ところが経済破綻する消費者の数が上昇し続けた為、「このまま民間の金融機関の任せておいては、将来、生活保護の受給者が急増、国家財政を圧迫する。」とやっと物分りの遅い政府もわかってきた。そこで政府は、「リースター年金を改善する。」と発表した。これまでは契約書は、素人には理解できない保険用語で書かれていたので、年金の実際の利率などは専門家にしか計算できなかった。そこで保険金融各社のリースター年金を表にして、異なる保険会社のリースター年金の利率を、一般消費者でも自分で比較検討できるようにする。これより手数料が高く、効率の悪いリースター年金は人気がなくなり、自然に市場から消えていくという政府の目論見だ。

一見すると、意味のある改善案のようの思えるが、効果のほどは疑わしい。一体、どれだけのドイツ人が自らこうした表を調達したり、消費者団体までお金を払って年金の相談に行くだろうか。そんな表がある事さえ知らないドイツ人が圧倒的な上、「保険会社で聞けばいい。」と安直(無料)な方法を選ぶ人がほとんどだろう。
          
老後の備えは何も年金ばかりではない。少し自分で勉強して、国債や社債を買う方法もある。国債といってもギリシャの国債ではなく、2008~9年の経済危機でも唯一、経済不況に陥らなかった東欧の優等生、ポーランドの10年物の国債を買えば利率は5%だ。日本でもよく知られているドイツの車産業、メルセデスベンツ、VW、BMWなどの社債は3~4%の利子がつき、どんなリースター年金、個人年金よりも利率がいい。冒険の勇気がある人は、国債、社債の代わりに株を買うこともできる。半国営企業のドイツテレコムは、今日の株価で換算して8%の配当金が出ており、個人年金の4倍もの配当/利率になる。株価そのものは8~10ユーロの間を浮き沈みしているので、株価の上昇は期待できないが、その分、大きな下落もない。

どのタイプの年金が自分に一番合っているか、それは各人の好みによります。「これが一番。」というものはありません。それぞれの年金の積み立て方法の落とし穴はここで説明しておいたので、これを参考に各人で自分に一番合っている年金タイプをご選択ください。
          

「年金は安全(なので心配しなくていい)。」と特大のポスターを自ら貼った労働大臣(1995年)は、
053.jpg

その後、嘲りの対象となった。

スポンサーサイト

COMMENT 0