キャビア (21.06.2008)

とあるレストランでの事。隣の席に座った初老のご夫婦がメニューをみながら、「この鮭は天然のものかね。」とケルナー(Kellner)に尋ねた。質問されたケルナーは明らかに言葉に詰まって、「私の知る限り、天然物です。」と答えていた。このドイツ語(人)の表現、「私の知る限り」(soweit ich weiss)は、問われた事について確かな事は何もしらないが、「何も知らない」(keine Ahnung)と言うと面子が潰れる場合に好んで使われる表現である。上品な身なりの老紳士はそんなことには気が付かないようで、満足したようにうなずくと、鮭を注文した。

ドイツの魚屋で売られている鮭のほとんどはノルウエー産の養殖物だ。以前はライン川でも鮭が大量に捕れたのだが、ライン川の上流にあるスイスの工場から劇薬が大量にライン川に流れ出し、魚という魚はほとんど全滅した。今ではライン川も水質が改善され、鮭の復活を目指して鮭の稚魚放流しているが、まだ大きな成果はあがっていない。(オランダがライン川河口にダムを建設したので、ライン川上流まで戻ってくるのが不可能になったとドイツ人は怒っている。)その代わりにライン河でピラニアが釣り揚げられて、新聞のニュースになっている。ペットのピラニアをライン河に放したのが原因だ。

欧州で絶命の危機にさらされて、養殖が盛んな魚と言えばStoer(チョウザメ)とマグロが挙げられる。(後者はよく日本が種を絶滅に追いやる悪者としてドイツのメデイアで槍玉にあがっている。)当然、数(量)が少なくなれば、値段は上がる。こうした魚を養殖して一発大儲けをたくらむ企業家が出てきたが、ドイツには適した海が無いのでマグロの養殖は不可能。そこで、ドイツではチョウザメの養殖が盛んだ。(日本でも養殖されている。)最近ではスーパーでもチョウザメを買う事ができるが、本来の目的はその卵、つまりキャビアを採る事だ(ドイツ語ではキャビアではなく、カビアと発音する)。ちなみにドイツでは、魚の卵を総称してキャビアという。例えば鮭の卵/イクラは、Lachskaviar/鮭のキャビアと言うので、「あ、キャビアが安い!」と衝動買いをしないように。安物は代用品を着色料で染めたもので、とても食べれたものではない。

チョウザメと言うと、連想するのはカスピ海のチョウザメで、キャビアといえばロシア産のBeluga Kaviarだろう。しかし、チョウザメの原産地は面白いことにカナダである。ここからチョウザメが世界各地に広がっていった。まだカスピ海が海と繋がっていた頃、この領域に住み込んだチョウザメが、天然の敵がいないカスピ海で大いに繁殖した。この結果、カスピ海はチョウザメの産地として有名だが、実際には世界中に生息している。原産地の北米は言うまでもなく、欧州ではフランス、英国、ポーランドなどチョウザメは珍しい魚ではなかった。ドイツでは1970年までライン河、エルベ河やドナウ河でも生息が確認され、中には7メートルもある巨大なチョウザメが捕獲された。(日本でも稀に捕獲されている。)

ドイツではカナダから活きたチョウザメを運んできてオーダー河に放流する事業が始まった。うまく行けば10年後にはドイツ(あるいはポーランド)産のキャビアが本家、ロシアのキャビアのキャビアに取ってかわる目論見である。カスピ海は、ロシア以外にも多くの(貧しい)国が接しており、密漁が盛んで、チョウザメの絶命は時間の問題であることを考えると、将来はオーダー」河がキャビアの産地として有名になるかもしれない。

ちなみに今、ドイツのスーパーなどで売られているキャビアは、安い魚の卵を黒く着色してキャビアと称して売っている粗悪品か、鮭か鱈の卵だ。珍味を置いてる高級デパートには、ドイツ製の養殖キャビアと共に、カスピ海で採れた本物のキャビアもある。そうそうロシアなどに旅行して、お世話になった人への「お土産にキャビアを!」と大金を払って購入すると、ドイツ(日本)入国の際、大きなトラブルとなるので要注意。キャビアの輸入、持ち込みには、密漁産でないことを示すロシア政府発行の書類(シール)が必要だ。言うまでも無く、この書類の偽物が多く出回っているので、政府のお墨付きの店で買っても、その信憑性はかなり怪しい。この為、ドイツに持ち込まれるキャビアの多くは、フランクフルトの空港で没収されている。

編集後記
「キャビアの養殖で一儲け!」とキャビアの養殖業者が投資家を募った。「年間生産量、300トン。」という数字に魅せられて、まるで蝋燭の光に突入する虫のように、多くの個人投資家が投資した。チョウザメが採るに足る卵を生産するまで7~8年かかることを考えれば、実に危ない投資である。それまでに病気になって死んでしまう稚魚の確率が高いからだ。案の定、この養殖も失敗した。と言うか、実際にはこの投資は投資金を狙った詐欺(計画倒産)であり、投資された1800万ユーロもの金は見事に養殖業者の懐に消えた。日本でも牛肉への投資が失敗して、投資家はお金を掏ったという。今後も似たような投資の「チャンス」が出てくるだろうが、生き物に投資するのは通常の投資よりも危険性が高い。ご注意あれ。

「偽物」キャビア
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こちらは本物のキャビア
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