介護制度改正 & 認知症治療の最前線 (17.10.2016)

介護保険制度、厳密に言えば介護度のクラス分けが2017年から変更される。これまでは介護度認定の際、肉体的能力の欠陥が介護度決定の指針になっていた。しかし認知症患者の場合、とりわけ自宅で介護されている場合は、肉体的な能力は衰えていないケースが多い。結果、認知症が進んでいるのに、介護度が低い、あるいは全く介護が必要と認定されないという不具合が生じていた。この不具合を解消するため、新しい制度では精神的な障害によっても、肉体的な障害同様に介護度が設定されることになった。

この機会に介護度も変更される。これまでは1~3、正確には0~3の介護度だったが、2017年から日本同様に1~5の介護度が導入される。介護度1では、1日1回、介護士が訪問、1時間まで程度の介護で済み、夜間の介護が必要ない場合。介護度1が認定されると、125ユーロ/月の介護補助金が出る。介護度2では1日1回(2時間まで)の介護で済み、夜間の介護はごく稀に必要なケース。自宅介護で済めば316ユーロ/月の介護補助金が出る。介護施設に日中の面倒を頼む場合、689ユーロまで保険で費用を持ってくれる。介護度3は日中6時間までの介護が必要で、夜間の介護も2回まで必要なケース。自宅介護で済めば545ユーロ/月の介護補助金が出る。介護施設に日中の面倒を頼む場合、1298ユーロまで保険で費用を持ってくれる。これ以上の介護度、さらに詳しい内訳はこちらで紹介されているので、参照あれ。

この介護制度の変更は、ドイツ国内でも増え続ける認知症患者がきっかけとなった。ドイツの厚生省の統計によるとドイツには認知症を患う患者が160万人おり、毎年、30万人が新たに発病しているという。社会の高年齢化によりこのペースは今後加速され、2050年には患者の数は300万人を突破、毎年40万人の規模で患者が増えるという。すなわち100人/日も新たにこの病気の患者が増える計算だ。ドイツよりも高年齢化が進んでいる日本ではドイツのほぼ3倍、460万人が認知症に苦しんでいる。日本はドイツの1.5倍の人口を抱えていることを考慮しても、この数字はあまりにも高く、日本は認知症の最前線だ。

しかるに日本で認知症治療薬として処方される薬の効果は非常に疑わしい。薬を製造してる会社は、「薬を常用することにより、病気の進行を遅らせることができる。」という。しかしこれは初期の期間に限られる上、ひどい副作用がある。家族の一員として、すでに認知症に苦しんでる親にさらに強い不快感を引き起こす薬を飲ませて、さらに苦しめる事の意味を疑う。薬を服用すれば病気が治る、あるいは病気の進行が止められるなら話は別だが、うまくいっても「初期に限って病気の進行をある程度遅らせる事ができる。」という程度なのだ。効果が出ているのか、家族にも全くわからない。アルツハイマーというと決まって副作用の大きなこのような薬を処方する日本の医療は、患者やその家族ではなく、医師や製薬会社の利益を優先しているのではないのか。しかし幸いなことに、世界中の学者がこの病気の解決に日夜努力をしている。お陰で認知症の研究はかなり進んでおり、治療薬の発見も現実的になってきた。

認知症のおよそ2/3はアルツハイマー症が原因だという。アルツハイマーの場合、脳の神経末端にこびりつく"Plaque"と呼ばれる淡白質、医学用語では"Amyloide Plaque"、又は"Amyloidbeta-Proteine"と呼ばれる、が原因と考えられている。このタンパク質はデータの転送をブロックするだけでなく、脳細胞がこのたんぱく質の薄い層に覆われると、脳細胞は炎症を起こして次第に破壊され、最後には死に至る。そこでスイスと米国の製薬会社の科学者は、"Antikörper"(英:Antibody")と呼ばれる植物性タンパク質をアルツハイマー初期の患者、165人に対して1年間適用したみた。その結果、"Plaque"は明らかに減少して、思考能力の減少も最小限度に抑えられた。そして投与された"Antikörper"の量が多く、そして治療期間が長い患者は、大部分の"Amyloide Plaque"を取り除くことができたという

今後は臨床実験対象をを2700人に増やして、さまざまな患者に対して効果を見極める。仮にテストがうまく行っても、薬として認可されるまでのは「まだ数年かかる。」というので、過大な期待は禁物だ。それでもこれまでは実質上、治療方法がなかったことを考えれば、大きな進展だ。これまでのテストでは、アルツハイマーの初期段階の患者に対してのみ効果があったというので、すでに発病している患者、その家族にとっては、薬が出来上がっても役に立ちそうにない。ちなみに日本でもこの分野の研究はかなり進んでいる。日本の学者は、"Tau-Protein"(タオタンパク質)がアルツハイマーの下手人ではないかと疑っている。普段なら脳の中で成分の運搬の役目を果たすこのタンパク質が、認知症患者では組織が破壊されてばらばらになって、脳細細胞に蓄積しているからだ。これが蓄積されると"Amyloide Plaque"同様に脳細胞が破壊され、認知症を引き起こすと考えられている。どっちが本当の原因か、双方の病状に関係があるのかまだわかってないが、西欧では"Amyloide"が"Tau-Protein"の破壊に影響しているのではないかと考えられている。このため、"Amyloide"を取り除く"Anti-Körper"の発見に躍起になっている。

何しろ世界中でアルツハイマーの患者は5千万人近く、毎年、7百万人を超える患者が増えているので、薬の開発に成功すれば、アスピリンとビアグラに続く大ヒット商品になる。スイスの製薬会社、それに米国の製薬会社2社の合計3社は、最も効果的な"Antikörper"の開発にしのぎを削っている。しかし4~5年後に薬が出来上がった場合でも、海外で認可された薬が日本で認可されるまで、さらに4~5年かかることを考えると、日本のアルツハイマー患者の未来は暗い。日本の製薬会社にも、是非、頑張って欲しい。

最後にいいニュースがある。上述の通り、認知症の1/3のケースでは、アルツハイマーは原因ではない。他の病気が認知症を引き起こしている。脳には"NMDA-Rezeptoren"という脳の信号を伝達する働きをもつ細胞がある。健康な脳ではこの細胞は受けた信号を脳の必要な部署に伝達、脳は正常に機能することができる。ところが何かの理由で自身の免疫が"Antikörper"と呼ばれる蛋白質を製造、これが"NMDA-Rezeptoren"の脳との接合部分に入り込み定着、信号の伝達を妨げることで認知症が発病することをベルリンの病院、"Charité"の医師が発見した。以来、同病院では数年前から、このタイプの認知症の治療を行っている。

"Charité"によると、体が"Antikörper"を製造しているか、簡単な血液検査でわかるという。この"Antikörper"が検出された場合、透析をすれば血液の中の"Antikörper"の大半を取り除くことができる。透析後、症状は早期に改善される。ただしすでに"Antikörper"により脳に障害が起きてしまっている場合、この脳障害を直すことはできない。そこで何よりも大事なのは、「物忘れが多くなった。」と思ったら、「アルツハイマーだったらどうしよう。」と悩まず、体内に"Antikörper"が製造されているか、チェックしてもらうこと。早期に発見できれば、認知症が発病することなく、通常の生活を送ることができるからだ。ただしこの"Antikörper"は、透析後も免疫が引き続き製造するので、薬を飲んで"Antikörper"の発生を抑える必要があるが、認知症が発病することを考えれば、何でもないだろう。

日本でも同様の治療が行われているか不明だが、ドイツに滞在してドイツの健康保険に加入している人は、健康保険がこの検査、治療費用を持ってくれる。ドイツの医療も、まだまだ捨てたものではない。

認知症にかかった脳(左)と正常な脳
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