ドイツで始める株式投資 続編  (17.06.2016)

まだ中国の経済が毎年10%も成長していた頃、「危険は承知で中国の株に投資してみたい。」という方が多かった。当時はまだ外国人、それとも素人が中国本土の株を直接買うことは不可能で、銀行が出している証券に頼るしかなかった。銀行を信用したくない人、あるいは自分で銘柄を選びたい人は、ドイツで上場されている中国の会社に投資することもできた。問題は中国の会社の場合、ドイツの会社と違い、会社のバックグランドを批判的な目で調べることができないことだ。ドイツの会社ならググルだけで結構詳細な情報が得られるが、中国の会社となるとそうはいかない。そこで上場のパンフレットを読むのだが、そこにはいい事しか書かれていない。株式が上場されれば仲介する銀行は儲かるし、株式市場を経営している会社も儲かり、上場される株を保有している株主も儲かるからだ。上場のパンフレットを読むと、まるでまるで発見されていないダイヤの原石を見つけたような気持ちになる。もしこれを信じて投資した人が居たなら、思惑とは全く異なった結果になった。

例えばYoubisheng Green Paper。2011年に上場された際は、このダイヤの原石に投資家が殺到、6.5ユーロの初値をつけた。段ボール箱を生産しているこの会社は、毎年業績が悪化、最後には会社の持ち主が夜逃げした。以来、株式は30セントのあたりで横ばいを続けている。実に95%の損失だ。時々、40セントを越えたりする事があるので、ジャンク株に特化した投資家の遊び道具になっている。例えばZhongDe Wasteという会社。ごみ焼却場を経営している会社で、2007年に中国の会社としては始めて上場された。初値は26ユーロ。景気の波に乗って40ユーロまで上昇したが、景気後退に比例して業績が悪化。赤字経営のこの会社はまだ存在しているが、株式は1.5ユーロ付近で落ち着いた。実に94%の損失だ。例えばAsian Bamboo。中国で竹を生産している会社だ。竹は食材から建築資材まで実に幅広い用途をもった未来の資材としてほめられて、ドイツの有名な新聞社が「環境に優しい株」とまで褒め上げた。ところが会社は当初から業績が芳しくなく、東芝のように偽の数字を発表、これがばれると株式は43ユーロから10セントまで暴落した。実に99%を越える損出だ。

銀行やメデイアがダイヤの原石であるかのように褒め上げて、数年後には紙屑になる会社は、中国の会社だけではない。"German Pellets"と言う会社は、木材を加工する際に発生するゴミ、廃材を使ってペレットを生産する会社だ。これを暖房に使用すれば、燃焼の際に放出される二酸化炭素は木が成長の際に吸収した二酸化炭素と同じ量なので、「環境に優しい暖房材」として人気があった。「環境に優しい。」という言葉は、「福袋」という言葉が日本人に与えるインパクトと同じ影響をドイツ人に与える。デパートの福袋を買うために列を作るのが日本人なら、「環境を保護して、さらにお金まで儲かるなら、ウイン ウインの状況じゃないか。」とドイツ人はこれにとびつく。これに目をつけたこの会社は8%の配当金を約束して、ドイツ人から資本を集めまくった。集めた金の一部は本当にペレッツに投資された。すなわち他社が製造したペレッツを買い、これに同社の袋に詰め替えると、「世界で最大のペレッツ業者。」と宣伝した。こうして集めた金で海外で不動産を買うと名義を変更、あるいは第三者に売ると、その金を海外に秘匿した。

しかし個人投資家はこの会社が頻繁に流したテレビのコマ-シャルに影響を受けて、「8%の配当金を払うなんて、(長く)できるわけがない。」という堅実な批判に聞く耳を持たなかった。2016年、同社は支払い不能になり会社更生法の適用を申請した。これをうけて監査に派遣された会計士が会社の財産をチェックすると、会社の資産は5000ユーロしか残っていなかった。この会社が、「環境に優しい」という言葉で10万人を越える個人投資家から集めた金は2億500千万ユーロだ。この金の大半は会社の社長であるLeibold氏の海外資産と金を集めるための宣伝費用に消えた。「ちょっと待って。同じような話を以前も読んだぞ。」という方は、きっと騙されることがないだろう。そう、2014年にここで紹介したProkonと全く同じ手口だ。ドイツ人は「環境に優しい。」という言葉に弱い。まるで子供のようにナイーブなので、これを高配当を組み合わせれば投資してくれる。同じ手口の詐欺が登場するのは時間の問題、あるいはすでに存在している可能性が高い。4~5年後、ここで新しい逸話を紹介することになるだろう。

日本人はそこまでナイーブではないが、「儲かる話」という言葉にとりわけ弱い。「キャビア(チョウザメ)に投資しようと思うんですが。」という話を未だに聞く。ここで紹介した通り、Caviar Creatorという会社は「キャンビアに投資して高配当!」という文句で3400万ユーロもの金を素人投資家から集め、倒産した。2005年の話しだ。しかるに、「いや、前回とは違います、今度はうまく行きます。」と、それでも高配当を夢見る方が後を経たない。日本では「和牛」への投資でお金を失った件もあった。お金を捨てないなら構わないが、どうせ捨てるならキャビアか和牛を買って、思う存分食ってお金を使ってしまったほうがまだいい。5%を越える配当金を約束する会社を信用してはらない。これだけは肝に銘じておこう。「じゃ、5%以下の配当なら安心なんですか。」と言えば、そうでもない。投資である限り、危険はつき物だ。ただ3%程度の配当では金が集まらないので、詐欺として「商売」に成り難いいだけだ。

「じゃ、どこに投資すればいいんですが。」と嘆く方は、まずはドイツの企業、少なくともドイツのトップ30の企業について勉強することから始めよう。勉強もしないで、「うまい話」を聞いて投資すると、高い勉強代を払うことになる。ではまずは初歩の質問、株式価格で計算して、一番価値のあるドイツ企業は何処の会社かご存知だろうか。ドイツに長年在住している日本人に聞くと、「フォルクスワーゲンかメルセデス、それともジーメンスかな。」と3つも回答を挙げてくれるが、見事に外れ。2015年に「最も価値がある会社」の王座に君臨したのは"SAP"だ。かってドイツのIBMで働いていていたエンジニアが独立して作った企業ソフトの会社で、ドイツのサクセスストーリーのNr.1だ。皆まで言えば、「ザップ」ではなく、「エス アー ペー」と読む。ドイツで「最も価値がある会社」なのに、「名前も聞いたことがない。」という方はドイツでの投資は慎重に。上述のように何も知らない会社に投資して、うまくいったケースは少ない。

「旅行代理店で働いているのでルフトハンザに。」とか、「車が好きなのでBMWに。」という投資方法もよくやる間違いだ。企業の戦術上のポジション、その業種の将来性を無視して、「好きだから」、「知っているから。」という理由で投資してうまく行くのは当初だけ。いずれはサボった勉強代を払う日がやってくる。お金を失う危険を減少させるには、投資先を分散する事が不可欠だ。すなわち好きな銘柄に執着するのではなく、投資対象をドイツのトップ30の企業に絞ろう。ドイツのトップ30の企業は"Dax"に上場されており、毎年、(全体の合計で)配当金を増額しているので、危険が少なく、毎年、配当金を手に入れることができる。仮に株価が2008年の際のようにクラッシュしても"DAX"企業の平均配当率は3,2%"なので、口座にお金を置いておくより効率がいい。毎年、配当金をいただいて3年もまっていれば黒字になるから、売りたければそれから売ればいい。DAX ETF"はDAX企業にまとめて投資してくれる証券で、ETFなので手数料も安い。手数料は証券/銀行により異なるが、仮に10万ユーロの投資しても年間150ユーロ程度の手数料で済むので、「どの株にしようかな。」と悩む必要がない。逆に言えば、手数料が安いので銀行は儲からず、投資の相談に行っても薦められることはない。「でもドイツ銀行、RWEはDAX企業なのに配当金を払っていませんよ。」と言う方は、すでに十分に事前知識があるので、特定の銘柄に絞った投資に手を出してみてもいい。

2015年は中国経済に陰りが出てきたものの、ドイツの企業にとって、「企業史上最高の利益」を出した年だっだ。自動車関連、工作機械関連、工業施設関連の企業は株価最高値を記録した。2016年は多くの企業が前年比で売り上げ、経常利益の後退を予測している。すなわちドイツの車はまだよく売れているが、2015年の記録に到達するのは不可能なので、株価が上昇する可能性は低い。とりわけトラックを生産している会社は、トラック需要の低迷に悩まされることになる。さらに車業界が総じて排ガス操作に関わっている現状では、第二のVW、第二の三菱が出てくるのは時間の問題だ。ところが景気が悪くなると、企業は自動化に投資して、人件費を節約しようとする。この為、上述のSAPは2016年は前年度以上の売り上げを見込んでいる。あるいは医療、保険関係は景気後退に強い。景気が良かろうが、悪かろうが、事故や病気には関係ないからだ。同じ理由でテレコム関係も景気の波にさほど影響を受けない。景気の後退がしばらく続きそうな現状で、投資するならこうした景気の波に影響を受け難い株がいい。

めぼしい候補を幾つか見つけたら、辛抱強く待つ。毎年、株は大きく変動する時期(伝統的には5~10月)があるので、株価が軒並み価格を下げて、パニック売りが始まってから、ゆっくりと株を買おう。特定の株に1万ユーロ投資する予算なら、まずは3000ユーロだけ投資して様子を見る。最初の買値から15%以上下げたら、この底値でさらに3000ユーロ分買い足す。ところが、「今が底値だ!」と持っていたら、全然底値ではなく、さらに15%暴落することが結構ある。ここで残っている4000ユーロを投資して株の買値を下げる。ひどい場合はさらに20%下げることもあるが、通常は2回買い足せば、すなわち当初の買値から30%も落ちれば、ほぼ底値だ。あとはじっと辛抱するだけ。「株を買ったら睡眠薬を買って株を見るのを辞める。10年後にどれだけ資産が増えたか見ればいい。」という有名な台詞がある。株を買って半年で黒字で売却できると思っている人は、株式投資に向いていない。最悪の場合、10年程度は待つ覚悟が必要だ。10年前、SAPの株価は30ユーロ前後で、一向に上昇しなかった。結局、「この株は儲からない。」と2年ほどで黒字で売ってしまったが、今や株価は70ユーロ越え。航空機を製造しているエアバスの株価も10年前、A380のトラブル、インサイダー取引の問題を抱えて20ユーロを割ったので、「赤字になる前に!」と売却。すると今や60ユーロに迫る勢いだ。

「じゃ、10年待てばいいの?」言えば、そういうものではない。ここで何度も紹介しているドイツ銀行の株価は10年前、120ユーロに迫る勢いだった。今や13~15ユーロ付近をうろついており、改善の兆しがない。DAXに上場されている銘柄でも、10年待っても株価が回復するどころか、さらに低迷するケースもある。それでもお金を失なわない方法がある。それは赤字で売らないこと。「当たり前じゃん。」と思われるが、持ち株が20%暴落しても株を保有できる人は少ない。10年以上働いて貯めた金が、毎日数千ユーロの単位で減っていくのを見るのは辛い。大抵は我慢できずに売ってしまう。「今、赤字で売って、株価が落ちたら買いなおして赤字を取り戻す。」と言っているが、ほとんどのケースではさらに赤字を背負い込むことを恐れて、株を買い戻せず、結局、赤字を背負い込む。これが、「高値で買って、底値で売る。」素人投資家の典型的な例だ。株に投資するなら20~30%赤字になっても毎晩寝れるだけの神経の太さ、それに株が赤字になっているときに買い足して買値を下げる財源が欠かせない。株で儲けるには(誰も買わないパニック時に)安く買って、高く売る必要があることをお忘れなく。


"German Pellets"の社長。
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Germanなんたらという会社は怪しい会社が多いです。



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