Ebay (17.02.2017)

ドイツで中古品を買う、あるいは売るとなると"Ebay"なしでは語れない。他のプラットフォームも存在しているが、Ebayに出品される品数、これを買い落とそうと入札してくれる人の数が圧倒的に多いので、「少しでも高く売りたい。」、あるいは「こんな物でも売れるの?」となると、必然的にEbayに出品することになる。日本で中古のニコンの一眼カメラの買取値段を聞くと、「9000円です。」とショックの値段。あまりに安いので、ドイツまで持ち帰って"Ebay"すると309ユーロで落札された。またあるときは休暇先でノートパソコンが、故障して作動しなくなった。「捨てて荷物を減らすか。」と思ったもの、わざわざドイツまで持ち帰って"Ebay"に「故障品につき部品取り用」として掲載。「1ユーロでも売れたら。」と思っていたのに、なんと150ユーロの値段で落札された。このように中古品を売却するには何かと便利だが、お金が動く場所には詐欺師も仕事をしているので、ここで売買をするには、詐欺から守る予防知識は欠かせない。

一言で"Ebay"と言っても、"Ebay"と"Ebay Kleinanzeige"の二種類がある。前者はご存知の通りのオークションのプラットフォームだ。後者はオークション式ではなく、売りたい側が希望価格を設定して販売する方式だ。(ドイツの)地方新聞に毎週掲載されている、「売ります。」という広告と基本的に同じだ。このプラットフォームはEbayの手数料がかからないで、ドイツ人はオークション式のEbayでEbayに払う手数料を嫌い、中古品を販売するプラットフォームには、この"Ebay Kleinanzeige"を好む。それに売却値段をコントールできる利点もある。そこでまずは"Ebay Kleinanzeige"について詳しく見てみよう。

オークション方式と違って、こちらのプラットフォームでは売り手が値段を決める。しかしドイツ人は中古品なのに、新品とほぼ変わらない値段、時には新品よりも高い値段を"VB"として値段を表示している。これは"Verhandlungsbasis"(交渉可能)という意味だが、中古品を新品の値段で売りに出しているドイツ人に、「○○ユーロではどうですか。」とメールを送っても、「この値段は侮辱している。」と憤慨して返事させ来ない。そのような品は売れないので、1ヶ月もするとドイツ人も適正価格を悟り、値段を下げてくる。"VB"の他にも"Festpreis"(固定価格)という値段表記の方法がある。値段交渉がわずらわしいので、目一杯安くして固定価格で出品しても、それでも値段交渉をしてくるのがドイツ人。欧州で一番のケチというのは、あながち誤りではない。そこで固定価格で出品する場合でも5~10ユーロの値段交渉に応じられるように値段をつけるのがコツだ。

"Ebay Kleinanzeige"の大きな欠点は、このプラットフォームは"Ebay"と違って、売買で発生するトラブルで責任を取らない事。結果として潜在的な購入希望者は売りに出されている品物が本当に書かれている通りか、品物を確認できる人間に限られてしまう。見たことのない中古品を、見たこともない第三者に送金して、期待した通りの品物が届くことを期待すれば話は別だが、期待は間違いなく裏切られてしまう。ドイツの民法では、個人間の売買では購買のキャンセル、保障要求は不可能なので、品物が届いてから、「キャンセルするので、代金を返してください。」という理屈は効かない。結果として"Ebay Kleinanzeige"では、潜在的な購入者の数が最初から限られてしまう。ケルン、ベルリン、ハンブルク、ミュンヘンのような大都市ならそれでも十分な購入希望者が居るが、人口が20万程度になると、購入希望者を見つけるのが難しくなる。とは言え、ベットやキッチンなどの家財道具などは引越しで処分せざるを得ないから、結構、頻繁に出ており、探している人も意外と多い。新品で買ったものの、気に入らないマットレスを(安い値段で)掲載すると、数時間で複数の「買いたい。」メールが届き、翌日にはもう引き取りに来た。

品物代金の支払いに"Paypal"を提供して、"Ebay Kleinanzeige"に出品することもできる。上述の通りドイツの民法では個人間の売買ではキャンセルはできないが、例外もある。送られてきた品物が、品物の記述と異なる場合は購買契約を解約することができる。例えば「新品同様」と書かれていた品物を"Ebay Kleinanzeige"購入、届いた品がボロボロだった場合、"Paypal"に報告すればお金が戻ってくる。"Ebay Kleinanzeige"で品物を見ないで購入する場合、"Paypal"での支払いなら安心だ。キャンセル(返品)が難しいのは、「上品」と書かれていたのに、届いた品物が「ボロボロ」だった場合。というのも、「上品」が何を意味するのか、はっきりしないからだ。売り手には十分に「上品」なのに、買い手には、「ボロボロ」ということもあるので、このような抽象的な表現には注意しよう。ドイツ人が好んで使用する表現、"fast wie neu"は「ほぼ新品同然」という意味だが、問題は「ほぼ」という言葉にある。「ほぼ」がどれくらいの解釈の余地を許すか、これには大きな差があるので、あまり真に受けないほうがいい。逆に購入したい品物の綺麗な実物写真が上げられて、品物の具体的な描写が書かれていれば、その情報量が緻密であれば信用する第一歩になる。そのような記述がなく、写真も適当なもの、あるいは現物ではなく製造元のホームページからコピーしてきたもので、「個人間の売買なのでキャンセル不可。」とだけ書いている出品を見たら、「おお、お買い得!」と飛びつくのではなく、迂回すべきだ。

逆に"Ebay Kleinanzeige"に"Paypal"での支払い可能で出品する場合は、注意が必要だ。まず"Paypal"は保障料として10ユーロ程度の手数料を取るので、この値段を上乗せすることをお忘れなく。そして詐欺師は四六時中、"Paypal"での支払い可能という掲載を探している。詐欺師は売り手と"Paypal"での支払いに同意、ちゃんと同意した金額を"Paypal"で送金する。売り手には「入金されました。」とメールが届くので、品物を購入者に送付する。すると数日後、「上品と書かれていたのに、届いた品物はボロボロだったので売買契約を解約する。」というメールが届く。「そんな馬鹿な!」と思い、返品されてきた品を見てびっくり!送った上品ではなく、摺りかえられて本当にボロボロの品が返品されてくる。そう、詐欺師はあらかじめボロボロの品物をどこかで調達して、同じ品物が"Ebay Kleinanzeige"に掲載されるのをじっと待っている。あとは品物を購入、"Paypal"で支払い、「ボロボロの品が届いた。」と"Paypal"に写真付きで苦情をあげる。すると"Paypal"はこの非難が正当なものであるかどうかをチェックしないで、購入者に費用を返却してしまう。こうして詐欺師はまんまとボロボロの品物を、上品と交換することができる。

このような危険があるので、"Ebay"と"Ebay Kleinanzeige"で"Paypal"での支払いを提供しない人も多い。ただし"Paypal"での支払いが提供されていないと、購入希望者の心配を煽る。結果、入札してくれる人の数は圧倒的に少なく、落札される金額が"Paypal"を提供してる場合と比較して20%程度低くなる。そこで出品する品物の繊細な写真をいろんな角度から撮って、製造番号も忘れないように写真で撮っておく。詐欺師が、「品物の描写と違い、ボロボロだった。」とボロボロの品を返品してきたら、この傷物の製造番号と売却した品物の製造番号を比較して、証拠写真を撮ればいい。この写真と傷物を持って警察に行き、詐欺で被害届を出す。その後、"Paypal"に証拠写真と警察からもらった被害届のコピー送れば、詐欺師に返金されたお金が戻ってくる。品物に製造番号が記載されてない場合、どこかすぐに見えない場所に目印となる傷(刻印)を入れて、これを撮影してから品物を送るなど、あかかじめ自己防御を行っておくと、詐欺師に当たっても被害を最小限に留めることができる。

オークション方式の"Ebay"では、プラットフォームが責任を(ある程度)取ってくれるので、比較的安心できる。入札する値段も自分でコントロールできる。もっとも人気の品は入札する人が多い上、ドイツでは中古品は日本の倍以上の値段が付くので、滅多に安価に手に入れることができないのが難点だ。しかしこれは逆に言えば、売り手には都合がいい。小さな田舎町に住んでいるので、"Ebay Kleinanzeige"では売れる見込みのない品でも、"Ebay"なら売れてしまう。手数料が10%かかるが、利便さを考えれば許容範囲だろう。"Ebay"の一番の欠点は、偽物。ジーンズや靴、鞄、それに化粧品などは偽物の宝庫で、多くの品は自分で撮った写真ではなく、メーカーが宣伝用に撮った写真を勝手に流用している。このような方法自体、著作権の乱用なので、信用できる売り手ではない。メーカーがその気になれば売り手を著作権の侵害で訴えることができるので、そのような売り手は通常、外国に籍を置くケースが多い。

「偽物と知って注文しているのでかまいません。」と言われるかもしれないが、これが大きな間違い。例えば香港の売り手にハンドバック(偽物)を注文する。香港の売り手はそれでもちゃんと発送してくれるのだが、外国からの品は関税で止められる。「関税まで請求書を持って取りに来てください。」という手紙が届くので、関税まで取りに行くと、「ここで開封してください。」と要求される。関税職員は開封された品物が本物であるか、偽物であるかチェックする。偽物であると判断された場合、品は没収されて処分されてしまう。海外旅行をして偽物を購入、これをドイツまで持ち帰るのは、自分で使用する限りは認められているが、偽物の(個人)輸入は禁止されているからだ。このようなケースでは"Ebay"は購入金額の保証を謳っているが、そこでは世界的な大企業。何かと理由をつけて、保障を拒む。「税務署からの通知を証拠として送ってください。」というので、"Ebay"まで送ったのに、「届いていません。」と言い張り、一向に保障されない仕組みだ。結局、損害を蒙るのは偽物を購入した消費者になる。偽物とわかる品には手を出さないほうがいい。

"Ebay"の便利な点も補足しておこう。"Ebay"手数料は、アマゾンのマーケットプレースよりも安いので、同じ業者が同じ品を"Ebay"では安く提供しているケースもある。又、アマゾンのマーケットプレースは偽物の宝庫で、詐欺師がとても多い。メーカー品が安く提供されていると、ほぼ中国製の偽物。高級品が3~4割も安くなっており、「買う前にここに連絡して。」と書いてあると100%詐欺。何故かアマゾンはこうした詐欺を取り締まらず、詐欺師が数多く徘徊しているのでアマゾンのマーケットプレースは運試し。トラブルを避けたい方は、販売人がアマゾン、あるいは配送人はアマゾンであることを確認して注文しよう。
 

完売!
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Die Kur (17.01.2017)

"Kur"というすぐに覚えられる単語は、「療養」という意味の名詞。これが動詞になると"kurieren"となり、「治す。」という他動詞になる。これにドイツ人の大好きな単語、"Urlaub"(休暇)が付いて、"Kur-Urlaub"(療養休暇)となる。日本でも知られているのは温泉治療だが、その他にも高地療養、運動療養、リハビリ療養などがある。30年前のドイツを知る人は、「ドイツでは温泉療養がタダでできるんだぞ!凄いだろう。」と自慢する。残念ながら21世紀の今日では、温泉療養費を健康保険が払ってくれることはほとんどない。例外はお金持ち保険と呼ばれている個人保険に加入しているケースだ。「じゃ個人保険に変えて、温泉治療をただで受けよう。」という思惑は、うまくいきません。個人保険の保険料は、温泉療養よりも高いです。

ところがである。国民健康保険に加入している場合でも、この療養休暇が認められることがある。例えば慢性的な疾患を患っており、医師が"Kur-Urlaub"が必要と(書面で)薦める場合、保険会社に申請を出してみることができる。かなり高い確立で、保険会社はこれを拒否する。保険会社は赤字なので、申請が必要な治療は滅多に許可が降りない。これを不服として再度、医師の診断書を提出して申請すると、疾患の程度、症状により許可されることがある。しかし許可されても、健康保険が払ってくれるのはわずか13ユーロ程度で、残りは自費だ。その程度の補助金目当てに、かなり面倒な手続きをする甲斐があるかどうか、各人で判断してください。

その他に保険が認可してくれる(可能性がある)のは、リハビリ療養。この療養を許可してもらうには、大きな事故、疾病で体の自由が失われていることが条件だ。この場合、申請先は"Rentenversicherung"(年金保険)になる。「肩こりがひどくて、満足に動けない。」という症状では、許可される可能性はありません。すると、「それじゃ何のための保険かわからない。」という苦情を聞きますが、肩こり程度で被保険者を温泉治療に送っていては、保険料は個人保険並みに上昇してしまいます。ドイツでは成人の半数は脂肪過多。だからと行って、"Magenverkleinerung"(胃を小さくする手術)を肥満体のドイツ人すべてに施すと、健康保険は破綻してしまいます。これでは健康に気をつけている人が、馬鹿を見ます。ですから胃の縮小手術は健康保険では(滅多に)許可がおりません。肩こりでの療養でも同じです。

「それじゃ、"Kur-Urlaub"なんて机上の空論で全く使えないじゃないですか。」と言いたくなる。その通りだ。だから冒頭で書いた通り、温泉治療が保険でできたのは30年も昔話だ。"Es sei denn,"(例外は)、"Mutter-Kind-Kur"(母子療養)と呼ばれる療養だ。ドイツにおけるシングルマザーの数、割合は日本の比ではない。ただでも子育ては大変なのに、これを一人でこなすのは(男性には)想像を絶する事業で、心の準備ができず女性は精神的に参ってしまう。そのような母と子供を救うために、母子、あるいは父子療養がある。この療養を受けるには、加入している健康保険に子育てのストレスを理由に療養を申請する。申請が拒否されることもあるので、医師から診断書を書いてもらったほうがうまくいく。あるいは母子療養を提供している施設が、「無料相談所」を設けている。療養施設も客が来てくれないと赤字なので、どのような理由を挙げれば降り易いか、アドバイスしてくれる。

申請が許可されると、最長で21日まで療養を受けることができる(症状により延長も可能)。そして療養の費用は健康保険(それに国民年金等)が負担してくれる。本人が払うのは自己負担金として10ユーロ/日。21日だと210ユーロだ。子供は18歳未満であれば無料。「210ユーロなんて払えない。」という場合は、子供の父親に頼むか、健康保険に自己負担金からの解放を交渉することもできる。例えば生活保護で生活している場合は、自己負担金から解放されることが多い。また療養施設までの交通費にも補助金が出る。ここでも自己負担金は10ユーロまで。療養中に薬などが処方されると、これも一部のみ自己負担となる。

母(父)子療養はシングルマザー、あるいはシングルファーザーのほうが認可されやすいが、夫婦の場合でも認可される。「じゃ夫婦一緒に療養に行こうか。」というわけにはいかない。申請ができるのは、子供の面倒を担当している母か父の片親だ。お金持ち保険では、別の規定があるかもしれないが、国の健康保険に加入している場合は、そのような規定になっている。肝心の療養先では、医師の診断を受けて、いろいろなコースに参加することになる。「一日中、寝てテレビを見ていればいい。」というものではいので、誤解されませんように。又、心身ともに子育ての疲れから回復できるように、子供の面倒を見てくる施設が存在しているので、子供のことを気にしないで療養に専念することができる。あるいは育児に疲れ果てている場合は、一人で療養を受けることができる。療養期間中、自宅で子供の面倒を見てくれる人がいればの話だが。

母子療養を申請する前に、仕事をしている人は会社にあらかじめ療養休暇を計画中であることを告げよう。見本市などを控えている場合は、「頼むから、この時期だけは仕事をしてくれ。」ということもあるから、会社側と療養に適した時期を相談しておいたほうがいい。というのも療養は病気と同じ扱いになるので、会社は社員が療養中もお給料を払い続けなくてはならないからだ。しかも療養は休暇ではないので、休暇の日数とは別個にカウントされる。厳密に言えばこの療養は病気治療にあたるので、社員が療養の申請をすると会社にはこれを拒む権利がない。とはいっても会社は(最大)28日の有給休暇と(最大)28日の(有給の)療養休暇を認めなければならないのだから、せめて事前に会社に事前に連絡くらいはしておこう。

すると悪知恵が働いて、「じゃ毎年療養休暇を取れば、実質まる2ヶ月、有給許可が取れる。」と考える人がいる。そこまで健康保険は甘くありません。慢性的な障害で悩んでいる場合、リハビリ療養では2年おき、母子療養は4年おきに申請を上げることができます。
 

母子療養は子供のお世話付き
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Luftreinhaltung (17.12.2016)

フォルクスヴァーゲン社(以下、VWと略)による排ガス値操作の起源は、欧州議会での決議にある。かなり前の話だが、デイーゼルエンジンが健康を害する悪玉として議題にあがった。燃焼の際に出す煤(炭素の微粒子、日本で話題のPM2,8。)と二酸化窒素による空気汚染で年間、8万4千人も死んでいるという研究結果が上がってきたからだ。ちなみにこの数字はイタリアだけの数で、ドイツでは7万2千人という数字が出ていた。EU委員会は悪の根源を絶つために排ガス規制を導入することにした。その一環として導入されたのが煤フィルターで、これを装着していないデーゼル車は高額な罰金を自動車税として払うことになった。同時に新しい排ガス基準が導入され、2009年からは"Euro 5"という排ガス基準を満たしていないと、高額な罰金を自動車税として払うことになった。2015年からはさらに厳しい"Euro 6"が導入された。

当時、メデイアは「空気が綺麗になる綺麗な規制。」とこの規制を賞賛した。不思議だったのは、厳しい筈の規定に2リットルは言うに及ばず、3リットルもの巨大なデイーゼルエンジンが易々と合格して、緑のステッカーをもらえたこと。この緑のステッカーを貼っている車は、市内中心部へ罰金を払わずに入る事ができる。当時は素人ながら、「ガソリン車ならまだわかるが、デイーゼル社が同じように厳しい"EURO 6"に合格できるなんて何処かおかしい。」と思わずには居られなかった。そして実際にその通りだった。

新しい排ガス規制は、自動車業界にとって利益を奪う悪玉でしかない。そこでドイツの政治家がEUに働きかけて、規制の末尾に、「エンジンに損害が生じる恐れがある場合、排ガス規制装置は止めてもかまわない。」と付け加えることに成功した。これが原因で、ドイツ、フランスに限らず日本、そして韓国の自動車メーカーまで、排ガス規制装置は車の登録試験の際にだけ機能して、日常、とりわけ気温が12度を割る日には、全く機能しないようにした。VW社はさらにその上を行き、車が試験されているかどうかを判断するソフトをボッシュから買い、これを装着したために世界中で槍玉にあがったが、排気ガスを走行中に計測すると、日本車、フランス車、米車、ドイツ車も大きく基準値からかけ離れており、やっていることに大きな違いはない。

問題は米国のカリフォルニア州の排ガス規制法には、「エンジンに損害が生じる恐れがある場合、排ガス規制装置は止めてもかまわない。」と書かれていなかったこと。これが原因でVW社は訴えられて、147億ドルというべらぼうな和解金を払うことになった。作動に問題があると知っていながら、イグニッションのリコールをせずに数名の死亡事故を起こしたGMが払った罰金はたったの9億ドルであった。米国で外国企業が同じような悪さをすると、外国企業はその10倍以上の罰金を課される。不可解なのは、日本でVW社が訴られなかったこと。同社は日本でも同じように排ガス規制を操作した車を販売、日本の排ガス規制法に抵触している筈だ。お隣の韓国ではVW社は訴えられて、同社のマネージャーは検察に逮捕されてしまった。その後、韓国の通産省は当初の千4百万ユーロの罰金に続き、「宣伝を嘘をついた。」として3百万ユーロもの高額な罰金刑を課した。しかるに日本の通産省、あるいは環境省は何故、VWを訴えないのだろう。日本の排ガス規制法にも欧州と同じような抜け穴規制があり、これが世間に知られることを恐れているのだろうか。

米国ではVWを買った消費者はこれを新品価格で返却できる上、5100~1万ドルもの賠償金を手にすることができる。なのに欧州の消費者は1セントももらえないし、車を返却することもできない。排ガス操作している同社のデーゼル車の中古車価格は下がる一方で、売却しようにも大きな損をすることになる。欧州委員会はこの消費者の待遇の違いを問題視して、VW社から何かしら賠償をえられないか協議中だ。間抜けなことに、そのような操作を許可する法律を同じEU委員会が考案、EU議会で議決されてしまっているので、欧州の消費者に何かしらの賠償金が支払われる可能性は低い。VW社の社長は、「ちゃんと車が機能するのに、賠償金を求めるなんててどうかしている。」と客を攻撃さえしているので、VW社が自主的に何かをしているという望みは抱かないほうがいい。

「それじゃ、今回の排ガス操作スキャンダルで何も変わらなかったのか。」と言えば、そういうわけでもない。このスキャンダルはデイーゼルエンジンの限界を示した。今後、欧州、米国は言うに及ばず、中国でも排ガス規制が厳しくなる。正確に言えば、今後はメーカーが提出した数字を信用しないで、ちゃんと計測するようになる。するといくら「ドイツの技術力」を用いても、3リットルものデイーゼルエンジンでは、排ガス規制をクリアできなくなる。すでに1.6リットルのデイーゼルエンジンで規制値に抑えるのができず、排ガス値を操作したのだから、デイーゼルエンジンの将来は暗い。

ドイツにはビールだけではなく、空気の値にも、"Luftreinhaltung"という規則がある。市は空気汚染が基準値を超えた場合、空気の質を改善する義務があるという法律だ。ところが各都市は何もしないか、あるいはここでも紹介した環境ステッカーを導入して、市内中心部への排ガスを撒き散らす車の進入を制限しようとした。ところがステッカーの販売で金を稼いだのはいいのだが、空気は一向に改善しなかった。(ステッカーを貼るだけで空気の質が改善するわけがない。)我慢の緒を切らせた環境団体はデユッセルドルフ市を法律違反で訴えて、勝訴してしまった。裁判所はデユッセルドルフ市に市内の空気を改善するための具体的な措置をとるように命じた。この命令を守らない場合、市は多額の罰金を課されて、市の予算にぽっかり大穴が空く。そこでデユッセルドルフは冬には空気汚染の主犯であるデイーゼル車の乗り入れ禁止を導入せざるを得ない事態に追い込まれている。ケルン、ボン、その他の都市でも同様の訴えが裁判所に出されており、デイーゼル禁止令は、ドイツ全土に広がるかもしれない。

今後、ドイツに引っ越して車を購入される場合、デイーゼル車は避けたほうが賢明だ。市内乗り入れが禁止される恐れがある上、電気自動車普及のため環境汚染の元凶であるデイーゼル車の自動車税、そしてデーゼル税を挙げて助成金を確保しようとする動きがある。そうなれば車の維持費が上昇する。さらには中古で売ろうにも、市内乗り入れができない車を誰が買うだろう。排ガススキャンダル後、ドイツ国内ではガソリン車の登録台数が10%上昇したが、デイーゼル車も大型車でなければ、まだまだ売れている。しかし最初の都市がデイーゼル禁止令を出すや否や、デイーゼル車の需要は一気に減少する。デイーゼル車をすでに所有している方は、まだいい値がつくうちに買い換えた方がいいかもしれない。

「じゃ、電気自動車にすればいいの?」といえば、そういうわけでもない。2016年末の時点では、電気自動車が電気をスピードチャージする場所が決定的に少ない。高い電気自動車を買っても、遠出には使えない。市内通勤とお買い物にしか車を利用せず、自宅の駐車場にコンセントがあり、環境意識が高く、いいお給料をもらっている人なら電気自動車を購入を考えるが、普通の消費者にはまだ高い高嶺の花だ。高い電気自動車の選択肢として、天然ガスを燃料とする車がある。ところがまたしてもVW社の天然ガス自動車が次々に爆発している。

コストカットに躍起になった同は安い素材を使ったガスタンクを使用したため、数年でボロボロに錆びてガスが漏れ始める。そしてエンジンのスイッチを入れると爆発するというわけだ。VW社の反応はいかにもドイツ人らしく、爆発した車種の燃料タンクだけリコールするというものだ。自動車雑誌が同社のガス自動車を調査してみると、リコールに指定されてないタンクもボロボロに錆びていた。GMが示した通り、死亡事故が起こってもメデイアで叩かれて販売台数が落ちるまでリコールをしないのが自動車メーカーだ。同社のガス自動車を所有している方は至急、ガスタンクを調査させよう。

面白いエピソードがあるので、ここで紹介しておこう。強大な自動車ロービーの間隙を縫って、ドイツの上院で「2030年からは内燃機関エンジンの搭載されて車の新規登録を禁止する。」という議題を賛成過半数で可決してしまった。この議題を見逃した自動車団体は、議題の決議後、一致団結してこの議題に反抗している。上院の議決がそのまま法律になることはなく、法律になるには下院でも議決される必要があるが、下院ではそのような議題は最初から見込みがないので、議題が提出されるかどうかも疑わしい。それもこれも、すべての発端はVW社の排ガス規制操作にある。このスキャンダルがなければ、ここまで話題が社会で議論される事はなかったろう。遅かれ早かれ電気自動車への移行は避けられず、電気自動車に欠かせないバッテリー製造では日本、韓国、そして中国企業の三つ巴の戦いになっている。消費者家電機器で苦戦を強いられて撤退を余儀なくされている日本企業、この競争に勝ち残れるだろうか。


デイーゼルの将来は?
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Preisbindung (17.10.2016)

インターネットショップが広まり続ける中、店舗型の商売は苦戦を強いられている。ここアウグスブルクでも市役所からわずか300m離れた場所にあるビルは、がらんどう。市内は駐車場の問題も加わって、客足が離れる一方だ。そんな市内の一等地の店舗で頑張っているのは、レストラン、スーパー、そして薬局だ。薬局も一軒だけのケースは珍しく、その斜め向かいも薬局で、同じ通りに4~5軒も軒を連ねている。スターバックスやマクドナルドを上回る店舗数の理由は、コーヒー並みのそのマージン(利益率)の高さにある。お医者さんから処方箋をもらって薬を薬局で買うと、9ユーロが薬局の収入になる。市内の一等地、隣が医者の診療所だったりすると、薬を求める客が列をなしている。薬局の組合が出している統計では、薬局の売り上げの平均は200万ユーロ!!なんというおいしい商売だろう。道理で薬局が多い筈だ。社会の高齢化、ドイツ人の慢性的な肥満化に伴い、病気になる人はうなぎ登り。まさに客が尽きる事のない商売だ。

医師の処方箋なしで買える薬、頭痛薬、抗アレルギー薬、下痢止めなどは、ドイツの薬局で日本の半額程度の値段で買える。ただし隣の薬局に行っても値段は変わらない。ほとんどの薬局が、定価販売をしているからだ。それでも当初は、「日本より全然安い。」と感激する。ところがインターネットで検索すると、同じ薬がさらに半額で買えるのにビックリ。ネットでは高い店舗が必要ないので、安価で提供することが可能になる。頭痛薬、抗アレルギー薬、下痢止めなどは、すでにパテント(特許)が切れているので、製薬会社はただのパテントを用いて、大量に薬を生産する。日本の製薬会社と違って欧州全域、そしてロシアや中近東、さらにはアフリカ、アジアでも販売するので、その生産量が桁違い。結果、日本では3000円もする下痢止めが、ドイツでは200円程度で買える。この値段でインターネット薬局、さらには製薬会社も儲かるのだから、生産コストは推して知るべきだ。インターネットで買うと郵送料がかかるが、通常、20ユーロ以上買うと送料は無料。薬の使用期限は2年ほどあるので、いつも買う薬があれば、半年、あるいは1年分買い置きしておけばよい。

薬がこんなに安く買えるまでは、長い道のりだった。以前は薬をインターネットで販売することは法律で禁止されていた。薬局組合が政治家に陳情して、薬局を通販(当時はまだインターネットが発達していなかった。)することを禁止していたからだ。ところがインターネットが普及を始めると、オランダのインターネット薬局がドイツ語のホームページを作って、安い値段で薬の販売を始めた。ドイツの法律に縛られない、オランダの薬局ならではの商法だ。ドイツの薬局は、「これではボロい儲けがなくなる。」と心配、一致団結して抵抗したが、欧州裁判所で負けた。以降、処方箋が必要ない薬の販売がインターネット上で可能になった。以降、ドイツ国内でもインターネット薬局はが数多く出現、目を疑うような安い値段でしのぎを削っている。

「ネットで買うとこんなに安いなら、処方箋の薬もネットで買えば安い?」と思ってしまう。しかし処方箋が必要な薬は、薬局で買うのと同じ値段になっている。これはドイツの薬局の最後の砦、"die Arzneimittelpreisbindung"(薬定価格制度)のためだ。元来この制度は、薬を必要とする患者が、どの町のどの薬局でも同じ値段で薬が買えるようにする目的で導入された。当初は薬の値段の高騰を避ける目的だったが、インターネット薬局の出現で必要ない法律になっている。それどころか、今日では薬局の高収入を保障する最後の武器となっている。

ところがここでもオランダのインターネット薬局が攻勢に出た。慢性的な病気を抱えて同じ薬を常用しなければならない場合、患者の月々の出費は馬鹿にならない。パーキンソン病の患者の団体はドイツの薬局組合に割引を打診したが、薬局団体はこれを拒否。そこでオランダのインターネット薬局に相談すると、こちらは大幅割引を提供。結果、パーキンソン病を患う患者は、インターネットで薬を注文、毎月数百ユーロの節約になっていた。ところがドイツの薬局団体は、「これはドイツの法律、"Arzneimittelpreisbindung"に抵触するものだ。」と訴えた。ところが欧州裁判所はドイツの法律、"Arzneimittelpreisbindung"は外国企業のドイツ市場参入を妨げるのであると判決、ドイツの現行の法律を無効と宣言した。

この判決を受けてドイツの薬局団体は、「ドイツ国内における薬の提供を脅かすものである。」と抵抗した。インターネットで薬を注文すると、処方箋が必要、必要ないにかかわらず、配達まで4~5日かかる。しかし薬局では即日で買える。このインフラを維持するのは金がかかる。インターネットで安価に処方箋が必要な薬が手に入るようになると、金のかかるインフラを抱えている薬局は不利で、やっていけないという苦情だ。消費者は逆に、「それじゃ今後は処方箋の必要な薬も安く買えるようになるの?」と喜んでしまうが、そうは甘くない。ドイツの薬局団体は、儲かるチャンスが失われていくのを指を加えて眺めているようなことはしない。薬局団体は政治家(厚生省)への太いパイプを利用、処方箋を必要とする薬の通販を禁止するように陳情した。厚生大臣はこの陳情を受けて、インターネット上で処方箋が必要な薬の販売を禁止する法律を準備中だ。残念。

参考。
処方箋の要らない薬は、"Rezeptfreie Medikamente"(複数形)という。日本と違ってドイツでは睡眠薬も処方箋が要らなく、薬局で買える。この処方箋が要らない薬のほとんどは、"Generika"と呼ばれるパテント期限の終了した薬を指す。わかりやすいように頭痛薬で言えば、オリジナルはバイヤー社のアスピリンだ。パテントが切れたので、全く同じ成分"Acetylsalicylsäurel"の頭痛薬をゲネリカ専門の製薬会社が製造、販売している。オリジナルを薬局で買うと20錠入りで10ユーロもするが、ゲネリカをインターネットで買うと2.50ユーロ。それも100条入り!!雲泥の差だ。日本では、「やっぱりオリジナルじゃないと。」という方が少なくないが、それは偏見です。成分が同じなので、効き目に違いはありません。単に名前が違うだけ。ドイツの健康保険は医療費を節約するため、「ゲネリカを処方するように。」とお達しを出しており、ドイツの医書はこれを大方守っている。


半年分まとめて注文。
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介護保険制度、厳密に言えば介護度のクラス分けが2017年から変更される。これまでは介護度認定の際、肉体的能力の欠陥が介護度決定の指針になっていた。しかし認知症患者の場合、とりわけ自宅で介護されている場合は、肉体的な能力は衰えていないケースが多い。結果、認知症が進んでいるのに、介護度が低い、あるいは全く介護が必要と認定されないという不具合が生じていた。この不具合を解消するため、新しい制度では精神的な障害によっても、肉体的な障害同様に介護度が設定されることになった。

この機会に介護度も変更される。これまでは1~3、正確には0~3の介護度だったが、2017年から日本同様に1~5の介護度が導入される。介護度1では、1日1回、介護士が訪問、1時間まで程度の介護で済み、夜間の介護が必要ない場合。介護度1が認定されると、125ユーロ/月の介護補助金が出る。介護度2では1日1回(2時間まで)の介護で済み、夜間の介護はごく稀に必要なケース。自宅介護で済めば316ユーロ/月の介護補助金が出る。介護施設に日中の面倒を頼む場合、689ユーロまで保険で費用を持ってくれる。介護度3は日中6時間までの介護が必要で、夜間の介護も2回まで必要なケース。自宅介護で済めば545ユーロ/月の介護補助金が出る。介護施設に日中の面倒を頼む場合、1298ユーロまで保険で費用を持ってくれる。これ以上の介護度、さらに詳しい内訳はこちらで紹介されているので、参照あれ。

この介護制度の変更は、ドイツ国内でも増え続ける認知症患者がきっかけとなった。ドイツの厚生省の統計によるとドイツには認知症を患う患者が160万人おり、毎年、30万人が新たに発病しているという。社会の高年齢化によりこのペースは今後加速され、2050年には患者の数は300万人を突破、毎年40万人の規模で患者が増えるという。すなわち100人/日も新たにこの病気の患者が増える計算だ。ドイツよりも高年齢化が進んでいる日本ではドイツのほぼ3倍、460万人が認知症に苦しんでいる。日本はドイツの1.5倍の人口を抱えていることを考慮しても、この数字はあまりにも高く、日本は認知症の最前線だ。

しかるに日本で認知症治療薬として処方される薬の効果は非常に疑わしい。薬を製造してる会社は、「薬を常用することにより、病気の進行を遅らせることができる。」という。しかしこれは初期の期間に限られる上、ひどい副作用がある。家族の一員として、すでに認知症に苦しんでる親にさらに強い不快感を引き起こす薬を飲ませて、さらに苦しめる事の意味を疑う。薬を服用すれば病気が治る、あるいは病気の進行が止められるなら話は別だが、うまくいっても「初期に限って病気の進行をある程度遅らせる事ができる。」という程度なのだ。効果が出ているのか、家族にも全くわからない。アルツハイマーというと決まって副作用の大きなこのような薬を処方する日本の医療は、患者やその家族ではなく、医師や製薬会社の利益を優先しているのではないのか。しかし幸いなことに、世界中の学者がこの病気の解決に日夜努力をしている。お陰で認知症の研究はかなり進んでおり、治療薬の発見も現実的になってきた。

認知症のおよそ2/3はアルツハイマー症が原因だという。アルツハイマーの場合、脳の神経末端にこびりつく"Plaque"と呼ばれる淡白質、医学用語では"Amyloide Plaque"、又は"Amyloidbeta-Proteine"と呼ばれる、が原因と考えられている。このタンパク質はデータの転送をブロックするだけでなく、脳細胞がこのたんぱく質の薄い層に覆われると、脳細胞は炎症を起こして次第に破壊され、最後には死に至る。そこでスイスと米国の製薬会社の科学者は、"Antikörper"(英:Antibody")と呼ばれる植物性タンパク質をアルツハイマー初期の患者、165人に対して1年間適用したみた。その結果、"Plaque"は明らかに減少して、思考能力の減少も最小限度に抑えられた。そして投与された"Antikörper"の量が多く、そして治療期間が長い患者は、大部分の"Amyloide Plaque"を取り除くことができたという

今後は臨床実験対象をを2700人に増やして、さまざまな患者に対して効果を見極める。仮にテストがうまく行っても、薬として認可されるまでのは「まだ数年かかる。」というので、過大な期待は禁物だ。それでもこれまでは実質上、治療方法がなかったことを考えれば、大きな進展だ。これまでのテストでは、アルツハイマーの初期段階の患者に対してのみ効果があったというので、すでに発病している患者、その家族にとっては、薬が出来上がっても役に立ちそうにない。ちなみに日本でもこの分野の研究はかなり進んでいる。日本の学者は、"Tau-Protein"(タオタンパク質)がアルツハイマーの下手人ではないかと疑っている。普段なら脳の中で成分の運搬の役目を果たすこのタンパク質が、認知症患者では組織が破壊されてばらばらになって、脳細細胞に蓄積しているからだ。これが蓄積されると"Amyloide Plaque"同様に脳細胞が破壊され、認知症を引き起こすと考えられている。どっちが本当の原因か、双方の病状に関係があるのかまだわかってないが、西欧では"Amyloide"が"Tau-Protein"の破壊に影響しているのではないかと考えられている。このため、"Amyloide"を取り除く"Anti-Körper"の発見に躍起になっている。

何しろ世界中でアルツハイマーの患者は5千万人近く、毎年、7百万人を超える患者が増えているので、薬の開発に成功すれば、アスピリンとビアグラに続く大ヒット商品になる。スイスの製薬会社、それに米国の製薬会社2社の合計3社は、最も効果的な"Antikörper"の開発にしのぎを削っている。しかし4~5年後に薬が出来上がった場合でも、海外で認可された薬が日本で認可されるまで、さらに4~5年かかることを考えると、日本のアルツハイマー患者の未来は暗い。日本の製薬会社にも、是非、頑張って欲しい。

最後にいいニュースがある。上述の通り、認知症の1/3のケースでは、アルツハイマーは原因ではない。他の病気が認知症を引き起こしている。脳には"NMDA-Rezeptoren"という脳の信号を伝達する働きをもつ細胞がある。健康な脳ではこの細胞は受けた信号を脳の必要な部署に伝達、脳は正常に機能することができる。ところが何かの理由で自身の免疫が"Antikörper"と呼ばれる蛋白質を製造、これが"NMDA-Rezeptoren"の脳との接合部分に入り込み定着、信号の伝達を妨げることで認知症が発病することをベルリンの病院、"Charité"の医師が発見した。以来、同病院では数年前から、このタイプの認知症の治療を行っている。

"Charité"によると、体が"Antikörper"を製造しているか、簡単な血液検査でわかるという。この"Antikörper"が検出された場合、透析をすれば血液の中の"Antikörper"の大半を取り除くことができる。透析後、症状は早期に改善される。ただしすでに"Antikörper"により脳に障害が起きてしまっている場合、この脳障害を直すことはできない。そこで何よりも大事なのは、「物忘れが多くなった。」と思ったら、「アルツハイマーだったらどうしよう。」と悩まず、体内に"Antikörper"が製造されているか、チェックしてもらうこと。早期に発見できれば、認知症が発病することなく、通常の生活を送ることができるからだ。ただしこの"Antikörper"は、透析後も免疫が引き続き製造するので、薬を飲んで"Antikörper"の発生を抑える必要があるが、認知症が発病することを考えれば、何でもないだろう。

日本でも同様の治療が行われているか不明だが、ドイツに滞在してドイツの健康保険に加入している人は、健康保険がこの検査、治療費用を持ってくれる。ドイツの医療も、まだまだ捨てたものではない。

認知症にかかった脳(左)と正常な脳
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